著者インタビュー
作家の方丈貴恵さんが長篇小説『盾と矛』(KADOKAWA)を上梓した。犯人を「絶対に逃さない探偵」草津と助手の霧島。「知」の草津×「暴」の霧島のコンビの前に立ちはだかるのは、事件の背後で暗躍し、証拠の隠蔽・捏造によって犯人を「必ず無罪にする仕事人」だ。探偵と仕事人の上書き推理合戦に魅せられる本書の刊行を機に、方丈さんにお話を伺った。(編集部)
――デビュー作『時空旅行者の砂時計』にはじまる〈竜泉家の一族〉シリーズを筆頭に、方丈さんの作品は、どれも設定とフーダニットに捻りがあります。今回の新刊『盾と矛』は、「犯人を絶対に逃さない探偵」VS「犯人を必ず無罪にする仕事人」による推理合戦を描く長篇ですが、着想のきっかけをお伺いします。
方丈 着想の直接的なきっかけとなったのは、迫稔雄さんのギャンブル漫画『嘘喰い』でした。賭け事の場面は言わずもがな、私が一番惹かれたのは、知的な勝負と「暴」的なアクションの両輪で物語が動いていくところです。本格ミステリの最大の醍醐味は、極限まで高められた緊張の中で行われる頭脳戦にあると考えているのですが、『嘘喰い』を読んで、頭脳戦に「暴」的なアクションを上手く組み合わせたら、もっと面白くなるのでは?と思うようになったのです。
頭脳戦にせよ、アクションにせよ、それを最大限に映えさせるためには、良い好敵手が必要不可欠ですよね。私は探偵と犯人がどちらも対等に活躍する場のある頭脳戦が好きで、映画でもヒーローとヴィランが互いを引き立て合いながら決着に向かっていく作品に魅力を感じます。本格ミステリにおける「最強VS最強」の構図はどうやったら成立するかを考えて、探偵とは真逆の存在――証拠を隠蔽・捏造し、犯人を確実に逃がす「仕事人」を思いつきました。
また、これまで私は主にダブル探偵ものの作品ばかりを書いてきたので、今回はしっかり助手を登場させ、本格ミステリの花形ともいえる探偵と助手のバディに挑戦したいとも考えていたんです。探偵の草津、荒事を担当する助手の霧島、真相を改変する「仕事人」ヒミコ。3人の背後に人間ドラマを絡ませることで、好敵手としても、「知」と「暴」の両面を活かした推理合戦ものとしても、良い形になったと感じています。
――普段、アイデアや着想は何から得ることが多いのでしょうか。
方丈 一番参考にしているのは映画でしょうか。犯罪者御用達ホテルが舞台の『アミュレット・ホテル』シリーズは、映画『ジョン・ウィック』とウィリアム・アイリッシュのホテル探偵もの中篇「ただならぬ部屋」から着想を得ていますし、少女と幽霊になった犯罪者が主人公の『少女には向かない完全犯罪』は、映画『レオン』が念頭にありました。
アクションの描写も主に映画から影響を受けていて、『007 スカイフォール』や『ブレット・トレイン』のような作品を思い浮かべることが多いですね。ただし、本格ミステリと組み合わせた際に、アクションだけが浮いてしまうのは避けたいところです。「知」と「暴」が互いに相乗効果をもたらすような、謎解きの楽しさが伝わる物語を目指しています。
――方丈さんの作品は、緻密なロジックも魅力的です。どのように物語や謎を構想しているのでしょう。
方丈 私は基本的に書きながらトリックを考えるタイプです。事件の舞台を決めて、そこに一番合うトリックやロジックを練っていく。『盾と矛』の第一章であれば、「雪山の別荘」というシチュエーションが確定してから、トリックや犯行方法を考えていきました。
逆に、最初から固めているのは物語全体の起承転結です。私自身が「転」で意表をつかれたり、大胆な展開が仕込まれた作品が好みなので、自分の作品も自然とそういう構成にすることが多いです。とはいえ、プロット段階では詳細は未定で目的地だけが決まっている状態なので、毎回綱渡りではあります(笑)。
――本書は、3章から構成された長篇です。第1章では密室、第2章では劇場型、第3章ではアリバイ崩しと、各章で趣向の異なる謎と事件に、探偵と仕事人が推理を重ねる。途中で語り手が犯人に変わる場面もあるので、倒叙ものの要素もあります。
方丈 今回挑戦したかったのは事件が起きた後に行われる改変合戦だったので、多重解決や倒叙形式はあまり意識していませんでした。でも、書き始めた段階で、やはり本格ミステリでこれを行うと多重解決になると気付いたんです。倒叙形式も同様で、頭脳戦なら犯人側の視点があった方が面白くなると感じて取り入れました。
犯人から見ると、草津と霧島のコンビはかなり厄介な存在です。犯罪者を助ける「仕事人」が、証拠の捏造や隠蔽で真相を上書きするのはまだ分かる。でも、草津と霧島もまた手段を選ばないし、しつこいんですよね。『刑事コロンボ』じゃないけれど、出会った時点で詰むような、相手にすると絶望したくなるタイプの探偵と助手です。犯人からしたら最悪のコンビですが、倒叙形式の物語にはこういう探偵の方が合う気がします。
――探偵VS仕事人の推理合戦を楽しんでいると、起承転結の「転」にあたる第3章で、とんでもない事態が発生します。ネタバレになるので詳細は伏せますが、おそらく読者の誰も予想できない事態です。
方丈 作者としてはちょっとした「驚きの展開」をやってみたつもりだったのですが、想像していたよりも反響が大きい印象です(笑)。
あの展開はプロットの段階から決めていました。頭脳戦の理想は、物語が進むにつれてスケールや緊張感がだんだんと盛り上がっていく形です。今作の場合、第2章では第1章の展開を受けて探偵と仕事人が互いに対策を講じ、第3章では更に予想外の展開も仕掛けることで、結末に向けて加速していく話を目指しました。
また、最終章でもある第3章は、クライマックスにふさわしく探偵と助手が全力で戦う姿を描きたいと思っていました。犯人からすれば通常時でも厄介なコンビが、フルパワーになってどんな頭脳戦を仕掛けるか――お楽しみいただければと思います。
草津と霧島、ヒミコは悩み葛藤もするけれど、自分が選んだ道を進む覚悟を持った人物です。レイモンド・チャンドラーの小説に登場する私立探偵フィリップ・マーロウのような、たとえ自分が損をすることがあろうとも、自分の信念を貫く探偵役に私は惹かれるのです。事件に真摯に向き合い、謎を解いた結果がどうなろうと、その責任をちゃんと引き受ける。私の描く探偵役は、毎回そういう人物像で造形しています。
――最後に、今後についてお聞かせください。
方丈 ちょうど『少女には向かない完全犯罪』の続篇のプロットができあがったので、書き始めているところです。毎度のごとくチャレンジ精神旺盛な内容になっていて、早くも執筆に苦労しそうな予感がありますが、未来の自分を信じたいと思います。
あとは、短篇シリーズものもいくつか書く予定があります。第1話が『オール讀物』に掲載された科学捜査官とオカルト好きの警視が登場する警察ミステリと、その他にもいくつか準備中のものがあるので、楽しみにしていただければと思います。(おわり)
★ほうじょう・きえ=作家。2019年に『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。著書に『孤島の来訪者』『名探偵に甘美なる死を』『アミュレット・ホテル』『少女には向かない完全犯罪』など。1984年生。
書籍
| 書籍名 | 盾と矛 |
| ISBN13 | 9784041163344 |
| ISBN10 | 404116334X |
