読書人を全部読む!
山本貴光
第25回 67年前の雑誌広告
さて、1959年頃の「読書人」には、どんな雑誌の広告が出ていただろう。そのつもりで見てみると、いまも続いている雑誌や、そんな雑誌があったのねと教えられたりして面白い。1月から3月の「読書人」に掲載されている雑誌広告からいくつか眺めてみよう。
まずは、いまも発行されている雑誌から。一つは『理想』(理想社)という哲学雑誌で、現在も年に1回発行されている。創刊は1927年だから、来年には創刊100周年を迎える長寿雑誌だ。ついでながら、日本で発行されている哲学方面の雑誌のうち、古くから続いているものには、『哲学雑誌』(哲学会、1887年創刊)や『思想』(岩波書店、1921年創刊)などもある。前者は1884年に結成された哲学会の機関誌で、当初は『哲学会雑誌』と題していた。この雑誌を創刊号から見てゆくと、日本において西洋由来の哲学がどのように受け止められ、やがて専門領域となっていったかという痕跡も垣間見える。という具合に、長く続く雑誌は、そうした変遷を知る手がかりにもなる。『思想』は岩波書店が発行する月刊誌で私もここ30年くらい読んでいる。岩波からはその前に『思潮』という雑誌も出ていた(1917-1919)。
『理想』に話を戻せば、広告には「新時代の世界観」という特集号の目次が掲載されている。これを見ると、出隆(1892-1980)、田中美知太郎(1902-1985)、カール・レーヴィット(1897-1973)をはじめとするいまでは百科事典等に名前の載る執筆陣が、世界観や世界史といった大きなテーマで寄稿している様子が見える。また、その隣には同じ理想社から発行されていた『実存主義』16号「特集=権力」も併載されている。その頃の「実存主義」といえば、第2次世界大戦後に大きな影響力をもったサルトル(1905-1980)の活動が連想されたりもするが、同誌はそれに限らず多様な論考を載せていたようだ。
また、白水社の『ふらんす』も広告を出している。1925年創刊の同誌は、フランス語学習やフランス語圏文化にかんするあれこれを載せる月刊誌で、昨年100周年を迎えたところ。「読書人」第259号(1959年1月26日)には2月号として、朝倉剛「可愛い悪魔」(映画シナリオ)、菅野昭正「作家と作品「アンドレ・マルロー」」ほか、やはり目次が掲載されている。「犬の運賃」というとても気になる随筆の著者が一瞬、鹿島茂と見えて驚いたのだけれど、落ち着いて見直したら藤島茂であった(1949年生まれの鹿島さんは当時まだ10歳)。
他に『群像』(講談社、1946年創刊)や『週刊女性自身』(光文社、1958年創刊)もあった。「読書人」で『女性自身』の広告を見るのは少し意外な感じもする。というのは、いまではあまり見かけないからだろうか。菊村到「片瀬氏の不幸と幸福」(読切小説)、沢野久雄「火の踊り」(連載小説)の他、「この一人の子に三人の親が」「林家三平のマス・コミ修業」など、国際ゴシップや芸能ネタが大きな文字で踊っている。「毎号・一万人の読者がふえています」とは景気のいい話である。
などと、少し具体的に見ているとすぐに紙幅が尽きてしまうのだった。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)
