『スター・ウォーズ』に学ぶ現代の戦争
マックス・ブルックス/ジョン・アンブル/ML・カヴァナー/ジェイム・ゲーツ編
海老原 豊
本書には映画『スター・ウォーズ』シリーズを題材に、戦略という観点から軍事専門家が書いた論考が二八篇収められている。執筆者は、現役および退役軍人、兵学校の教員、戦争ジャーナリスト、映画化もされた『ワールド・ウォーZ』の原作者マックス・ブルックスなど、多岐にわたる。本書のユニークな点は、『スター・ウォーズ』の政治と軍の関係、新兵器の開発と使用、代表的な戦闘における戦略、指揮官の心得などについて執筆者が真剣に論じているところだ。
本書の議論を具体的に紹介しよう。ある論考は帝国軍と反乱軍の比較を通じて「効果的な軍隊とは何か?」と問う。『スター・ウォーズ』(エピソード4〜6)で、帝国は反乱軍に敗れる。原因の一つとして指摘されるのが帝国の強権的で硬直した指揮系統だ。ダース・ベイダーは、部下の司令官が期待どおりの戦果を出せないと、容赦なくフォースを使って処刑する。他の部下の前で行われる見せしめで、ダース・ベイダーへの盲目的服従が強まる。しかし、状況が絶えず変化する戦場で必要とされるのは、命令に従いながらも状況に応じて臨機応変に動く裁量を、前線にいる兵士たちに与えることだ。これは軍事用語で「ミッション・コマンド」と呼ばれている。
他には『スター・ウォーズ』を反面教師に、文民統制のあるべき姿を探る論考もある。ジェダイの騎士という特別な力を持つ戦士を元老院が統制する文民統制が共和国にはあった。しかし、非政治的・公平であろうとするジェダイの自己規律が、エリート的階級意識を醸成し、やがてジェダイと守るべき共和国民のあいだに距離が生じる。この構造的な隙間を政治的野心で突いたのが後の帝国皇帝であるが、共和国の崩壊と帝国の勃興は一部の野心家だけでは決して繫ぐことができない。個人の問題である以上に構造の問題である。興味深いことに、軍隊と国民の距離はアメリカにおいても観察され、深刻な問題と認識されている。日本における自衛隊の位置付けを鑑みるに、ジェダイと共和国民の関係は日本でこそより注目するべきではないか。
ここまで本書の魅力として『スター・ウォーズ』から戦略的な教訓を得る可能性を紹介してきた。『スター・ウォーズ』ファンに「刺さる」のは間違いない。では『スター・ウォーズ』を知らない人、『スター・ウォーズ』に興味がない人に本書は「刺さらない」だろうか。
本書は『スター・ウォーズ』を見たことがない人でも理解できるように書かれている。ある程度の解説はされているし、聞き慣れない人名・地名も出てくるが許容範囲だろう。焦点は、名前よりもそこから導かれる教訓に置かれている。
知ってはいても『スター・ウォーズ』に興味がなく、専門家たちの大真面目な議論に意義を見出せない人はどうか。このような人こそ本書から得るものが多いと思う。戦略とは、戦争で勝利し相手を自分の思うように振る舞わせるための作戦であるが、この戦略観は、戦争という場面に限定されないからだ。
多くのビジネス書が、古今東西の戦略家の発想を元に、ビジネスパーソンに向けて助言をする。先にダース・ベイダーの指揮とその問題点を説明したが、ビジネスの文脈ならダース・ベイダーはパワハラ上司に分類される。裁量を認めず結果だけ求める上司はあなたの身近にいないだろうか。帝国軍は同じ失敗を繰り返す。超破壊兵器デス・スターを二度も作ったのは失策だ。失敗したプロダクトを、失敗の原因分析も対策もなしに第二弾をローンチする会社は、あなたのそばにないだろうか。資本主義という戦場を戦い抜く戦略を本書は与えてくれるだろう。
『スター・ウォーズ』を戦略的に検討したことで得られた教訓は、この地球に今生きている私たちにも有用なのだ。これを可能にするのが『スター・ウォーズ』というSF物語の普遍性、そして戦略という人間の営みの普遍性である。(奥山真司・中谷寛士訳)(えびはら・ゆたか=SF評論家)
★マックス・ブルックス=作家・講演家。
★ジョン・アンブル=米陸軍士官学校現代戦争研究所の編集ディレクター。
★ML・カヴァナー=退役中佐。現役時は米陸軍戦略家。
★ジェイム・ゲーツ=SF作家・編集者。
書籍
| 書籍名 | 『スター・ウォーズ』に学ぶ現代の戦争 |
| ISBN13 | 9784163921075 |
| ISBN10 | 4163921079 |
