日本古代史
木本 好信
歴史研究の基本は史料である。史料に関わる成果として、廣岡義隆校註『出雲國風土記註解』(和泉書院)は、『出雲国風土記』の本文・訓読・現代語訳、そして註解を加えた決定版。原水民樹『『台記』注釈 久寿元年』(和泉書院)は、藤原頼長の日記『台記』久寿元(一一五四)年記を訓読し、注釈を加えたもの。また池田光佑・小松正弥他編『外記日記 逸文集成』(岩田書院)は、摂関期から院政期にかけての太政官日録である「外記日記」の逸文を集成した史料集。
古代史を学ぶに際して、遺跡の史的重要性を知ることを前提にガイドブック的な新古代史の会編『歩いて学ぶ日本古代史』(吉川弘文館)1「邪馬台国から大化改新まで」、2「律令国家の成立と天平の世」、3「平安遷都から武士の台頭まで」は、平易で興味ある内容。
人物史の成果は少ない。今井晃樹『称徳天皇とよみがえる古代寺院』(同成社)は、称徳女帝の西大寺・西隆寺建立の意図を発掘成果から著述する。発掘成果だけに注視すると、海野聡『宮殿の古代史』(集英社新書)がある。岡野浩二『空也と源信』(山川出版社)は、この二人の僧侶を通して平安仏教の展開を教理面からも論述する。桓武天皇の一面と臣下の関係に焦点をあわせた著作に木本『続 藤原式家官人の考察』(岩田書院)がある。
氏族についての述作としては、瀧浪貞子『藤原摂関家の誕生』(岩波新書)と、加藤謙吉『阿曇氏の研究』(雄山閣)がある。前者は藤原氏が王朝貴族としての栄華を極めるまでを皇位継承問題を主点にすえて、また後者は海洋氏族である阿曇氏の発祥地などを詳論する。
つづいて特異な成果、天皇の妻である「妃・夫人・嬪・女御・更衣」など、江戸時代でいえば大奥にあたる「後宮」の制度や女性の暮らしの実態を描いた遠藤みどり『日本の後宮』(中公新書)、邪馬台国から奈良時代、そして平安時代の犯罪・刑罰の法制と司法行政を概述する長谷山彰『罪と罰の古代史』(吉川弘文館)、律令の家族法、「親族・親子・婚姻」などに嘱目した成清弘和『律令家族法の研究』(塙書房)は、中国唐の律令に留意し我朝の大宝・養老律令を対照しつつ講究している。その中国隋唐との外交に論及した榎本淳一『隋唐朝貢体制と古代日本』(吉川弘文館)、対中国外交が注目される昨今、何か示唆することもあるやもしれない。
アトランダムに、「正倉院文書」研究の現状と課題、そこから考察した写経と財政・銭貨の実相を解明した栄原永遠男『正倉院文書と日本古代銭貨』(清文堂)、そして仏教・神祇信仰という宗教が古代社会に果たして役割についての論文集の宮﨑健司編『日本古代中世の社会と宗教』(法藏館)も貴重な成果。地方史の業績を一つ、吉野武他編『多賀城創建』(高志書院)は、多賀城創建と展開に関しての論文集。
最後に触れなければならない碩学直木孝次郎が先の大戦という激動の時代に学徒動員され経験したうえでの古代史研究に託したイキザマを遺稿から見る『歴史学者と天皇・戦争』(吉川弘文館)、遺稿の一つに関わった者として感慨深い。
末尾に一冊、木本『奈良時代政治史の諸相』(和泉書院)を付記する。(きもと・よしのぶ=元龍谷大学教授・日本古代政治史)
