2025/10/24号 6面

京都撮影所案内

京都撮影所案内 高鳥 都写真・文 切通 理作 映画の「撮影所」と聞くと、なんとなく持つ印象は、かつて威容を誇った映画界にとっての、豊かな設備が許されたイメージだ。それと裏腹に「いまはそこまでじゃないんだろうな」という思いも抱いてしまう。撮影に使われていた場所は売り渡され、少しずつ削られて、小さくなっていくような……それでも「映画の夢」の残滓がきっと在るんだろうなと思わせる。  「撮影所」という言葉の前に「京都」が付くと、「時代劇」という、今はなき江戸時代の再現が欠かせない一つのジャンルの栄枯盛衰が重ね合わされる。京都の撮影所だからと言って、時代劇専門ではないのだが、かつて人気番組だったテレビ時代劇が現役で作られなくなったことの寂しさも立ち込めよう。  そんな茫漠としたイメージを持っていた、たとえば筆者のような人間に、可能な限り、その実像を示すのが本書である。題名通り、京都の撮影所にカメラが入り、江戸の町並みを再現したオープンセットに各種ステージ、衣裳部屋、小道具倉庫などのディテールが鮮明な写真と共に解説され、時代劇に携わる撮影や録音、美術、装飾など各パートの職人や経営陣へのインタビューが挿し込まれている。セットに付けられた名前とその由来を読むと、無機物であるはずの建物がより有機性を帯びる。写真と文は、必殺シリーズ聞き書き四部作の著者であり、これまで時代劇含む数多くの映像スタッフ・出演者の取材をしてきた高鳥都による。  東映京都撮影所、松竹撮影所という2つの映画スタジオが中心になっているが、規模という点ではより小さい後者の紹介から始まっている。セットの飾り替えやライティング、可動式の建物や塀など、狭さを工夫で補う妙を先に知ってから、よりスケールの大きい舞台へと視点を移す事の出来る構成だ。  また、その間に挿まれるかたちで、大映撮影所がなくなった後の「大映通り商店街」に、照明、美粧や小道具の会社がいまだ残っている事にも興味を促す。現代でも続くそうした場所の営みが、核となっていた撮影所の幻を浮上させもする。  さらに締めくくりとして、京都市内に各撮影所があった時代の地図を提示するところから始まって、撮影所の変遷史をたどるページがある。ここにおいて、読者の身体に映画の歴史がまさに血流のように流れてくるのだ。  一般に公開され、テーマパーク化した東映太秦映画村や、撮影所を持たない制作会社の紹介もなされる。黄金時代の煌びやかな主舞台だけでない、時代劇を支えてきたあらゆる要素への目配りが感じ取れる一冊である。(きりどおし・りさく=評論家)  ★たかとり・みやこ=ライター。二〇一〇年よりライターとしての活動をスタートし、雑誌を中心にルポやインタビューを発表。著書に『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』『あぶない刑事インタビューズ「核心」』、編著に『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』『必殺仕置人大全』など。一九八〇年生。

書籍

書籍名 京都撮影所案内
ISBN13 9784845643059
ISBN10 4845643057