日常の向こう側 ぼくの内側 751
横尾忠則
2026.8.17 〈深夜布団の上におでんが長々と寝そべっていることに気づいて、手でおでんの躰を撫ぜてみるのだが、おでんの感触はなく、ただ布団を撫でているだけ〉、夢だったらしい。
〈郷里の実家の10畳の間に大きい星条旗が広げられている〉夢を見る。
4日間、便秘で苦しんでいたが5日目に解消。地獄から天国へ。
それにしても妻が全く食欲がなく、何も食べたくないという。この問題は妻の悩みというより自分の悩みとなっている。
2026.8.18 〈画廊主と、そこに所属するアーティストと奈良を見学して、作品を制作するというプロジェクトに参加する。ぼくはスカイザバスハウスのオーナーの白石さんと、徳永も同伴で奈良に行くが、レストランで食事をしたあと、日記帖を入れたカバンを盗まれて、絶望する〉夢を見るが、夢だとわかってホッとする。
昨夜は何十年振りかで一度もトイレに行かないで9時間ばかり爆睡する。そのせいか終日頭痛に悩む。
今日も83歳、85歳、87歳の人が死去する。われながら延命していることに奇跡を感じる。
神戸の横尾美術館から山本さん、平林さんが次回展の企画のプランを持参。兵庫県は赤字県で、この県立美術館にはもろ悪影響があると頭の痛い話である。
2026.8.19 昨夜、水野クリニックで処方された鎮痛剤で、ケロッと完治するが、寝だめのせいか昨夜は逆行不眠。
定期診断で玉川病院へ。中嶋先生は、横尾さんは霞を食べていたらよいという領域に入ってきているので食欲がなくても病気じゃないからいいと。小野先生は高齢に伴い、少ないカロリーで躰が維持できるように変化してきていると。奥村先生は、食欲がないとかいう老衰の人は、病院には歩いてこれませんと、三先生共、病人扱いしてくれないが、本人は病気なんですよ。
2026.8.20 岸惠子さん老衰で死去。やっぱり老衰死なんだ。パリで一度会ったことがあった。
『文學界』の自伝50枚ほど書く。一気に書いたためか、立ち上がれなくなる。一気につめたので、自律神経失調症になったのかも知れない。そして相変らず何を食べても砂をかじっている感じで、食べる前から全く食欲ない。点滴でもと水野クリニックの先生に相談するが、ポカリスエットが飲めるなら、点滴は無駄と。どうも一日の水の飲む量が少ないらしい。水、水、水とどの先生も言う。
夫婦共々食欲がないので好物のうな重をテイクアウトするが、一口食べて終り。妻はご飯はともかくうなぎだけは全部たいらげて驚く。
夜、ニューヨーク在住の平野啓一郎くんからニューヨーク便りのメールが届く。これがいつも面白いのである。何度も行ったニューヨークの体験が躰にしみついているので、平野くんのニューヨーク便りに直に本人から、しかもニューヨークのどこかで聞いている感じだ。ぼくのメールに対しては彼は何も包み隠すことなく本音を話してくれる。彼もぼくに対して不透明な部分を全て吐き出しているようだ。これが正に文学ではないのか。寝る前に早速平野くんにメールを書く。
2026.8.21 90代は80代と全て違う。このままずるずる行くしかないのかな。病気と認めてくれない病気。
2026.8.22 かろうじておにぎり2個。
夕方雨が降ってきたので、風間くんに車で送り迎え。
食事時は苦痛。『文學界』の自伝100枚完結。
空洞化して食欲なく気持悪かったが無理に食べたら少し落ちついた。この感覚記憶しなきゃ。
2026.8.23 朝になると再びあの空洞感覚に襲われ始めた。食べたいが、食べられない。食べたとしても、その感覚がない。
昼に美美がおにぎりを2つ買ってくる。今日は終日自宅のベッドの上で。
夕食に長い間食べてなかったステーキを食べる。食欲がないのに80グラムペロッ。これで食欲快復するかな。(よこお・ただのり=美術家)
