日常の向こう側 ぼくの内側 No.703
横尾忠則
2025.8.4 糸井重里さん、菅野さん、トンカツ弁当持参で来訪。糸井さんとは干支が同じネズミ。いつもお互いに話を齧り廻すくせがある。
乱歩の『怪人ニコラ』を読む。最後の1行まで何が起こるかわからない。
メジャーの試合で投手が投げる球がバッターの手元で、いびきのような擬音を発す。ザワー、ビシン、フワーッ、ドスンと。野球の劇画化か。このことに気づいている者は何人いる?
2025.8.5 馬鹿みたいに毎朝痰がでる。きっと馬鹿なのかも知れない。
販売用の犬山のポスターにサインを200枚。
夜、『怪人ニコラ』の次に『少年探偵団』を読む。乱歩は全作読破しているはずなのに、まるで初読のよう。
2025.8.6 〈神戸駅で西脇行の切符を買うと、切符係の駅員が浅丘ルリ子を知っていますかと問う〉夢を見る。
玉川病院へ定期診断。特に異変はないがコレステロールを下げる薬の副作用が筋肉に影響を与えかねないので薬の量を減らしてみる。
朝日新聞の書評の対象本がないので、1ヶ月ばかり休む。偏頭痛もあることだし。
2025.8.7 〈イーストハンプトンのサグハーバーに住むポール・デイビスが、ジャクソン・ポロックと共作したという画集を送ってくる。またポールの友人達のポートレイトをレストランで描く〉夢を見る。
元国立能楽堂の猪又さんの紹介で心身統一合氣道の藤平信一夫妻来訪。成城にも道場があるので、試してみようかな。
2025.8.8 東京国立博物館の松嶋夫妻来訪。今後のプランなど話すが、その頃の「今後」はもうこちらの世界から旅立っているのでは。
2025.8.9 2・26事件の年に生まれて第二次世界大戦を経験したことと、延命している意味はあるのか、ないのか?
2025.8.10 小雨の中自転車でアトリエへ。不順な天候そのままの体調に絵は描かず。
2025.8.11 日常そのままの夢多し、夢の記述は必要なし。
63年前に出版された『横尾忠則全集』の復刻版(国書刊行会)150冊にサインを。
夕刻、jabへシャンプーに。
2025.8.12 天気も気分も体調も全て曇天。
GUCCI展の第2弾6作品を搬入の予定が天候不順のために中止。結局、雨は降らず。
2025.8.13 玉川病院の神経内科へ。首の骨に多少損傷あり。痛み止めを処方される。
昨日の搬入予定のGUCCI作品、南さん、芦沢さん、アラタ・アートセンターによってアトリエ内から作品ごっそり消滅。
大谷43号打つも10回逆転負け。
田中小実昌『自伝』読み始める。この手の本を読んだことがないが、気楽な生き方がいい。
2025.8.14 中京テレビの村地賢さん来訪。愛知県との縁の始まりの予感。
新宿LOFT50周年メインビジュアルの制作の依頼。まだまだポスターの依頼が待機している。
合気道の成城道場の小原さん、アトリエで指導してもらう。躰にいいことは何ひとつしていないので、まっ、ええか。
保坂和志さんが小島信夫さんの小説2冊送ってくれる。早速読み始める。
2025.8.15 80年以前のあの戦時中の重苦しい空気の中で生きていたあの日あの時がよみがえる。
午前、広井王子さんが『幻想劇場イルミナント「白雪の騎士」』がいよいよ上演と、やってくる。
ヴィットリオ・デ・シーカ監督、ソフィア・ローレンの『ひまわり』観る。始めと終りが輪廻する救いようのない物語で終ったところから始まる、つまり唯識論である。
夕方になって新しいモチーフの絵を描き始める。
2025.8.16 午前中に「週刊新潮」のエッセイ2週分を書く。編集部に入稿している原稿は今年の12月分近く入っているはず。なのにさらに書いてしまうのはなぜだかわからない。
2025.8.17 日曜日、昨日の土曜日とさほど変化なし。アトリエで居眠りしている間に100号キャンバスが届いたらしく、さあ、描けといわんばかりに壁に並んでいる。(よこお・ただのり=美術家)