2025/12/05号 6面

「読書人を全部読む!」16(山本貴光)

読書人を全部読む! 山本貴光 第16回 世紀の偉業 堂々完成!  「読書人」のバックナンバーを読む楽しみのひとつに広告がある。目下は創刊の1958年から1959年に進んだところで、いまから66年ほど前の号を読んでいる。当然のことながら、当時の新刊書の広告が出ているわけだが、眺めるうちにいくつか気がつくことがある。  なにより目に入るのは、全集類や辞書事典の広告がじつに多いところ。なにも私が全集や辞書事典好きだからというわけではない。例えば、1959年1月1日(第256号)を見てみよう。筑摩書房は新春の企画として、「中野重治全集 完璧版」(全16巻)、「梶井基次郎全集 決定版」(全3巻)、「大宅壮一選集 自選」(全12巻)、「森鷗外全集 読解註釈附」(全8巻)と、4つの全集・選集を並べている。全集にはしばしば「定本」「決定版」といった形容がつけられるものだが、「完璧版」はあまり見たことがない。それはそうと、これだけ全集ばかりが並ぶ広告は、いまではなかなかお目にかかれない光景だ。  文芸方面では、講談社が文芸の新刊単行本をずらりと並べた広告に「講談社創業50周年記念出版 現代長編小説全集全52巻」を提示しているのが目立つ。第3回配本とのことで、吉川英治集、獅子文六集、柴田錬三郎集の3冊が予告されている。実際のところどのくらい売れたり読まれたりしていたかは分からないが、このような企画が実現していたことに驚かされる。ついでながら、「現代長編小説全集」という名の全集は、戦前には新潮社と三笠書房から、戦後には春陽堂からそれぞれ出ていた。  極めつけは平凡社の広告で、「世界大百科事典」(全31巻+索引)の本巻31巻が完結したとのことで、「全巻完成記念予約大募集中」とある。林達夫が編集長を務めて、1955年から刊行していた百科事典だ。後に改訂新版やデジタル版も出ており、いまではウェブのJapanKnowledgeで更新されている。広告には「世紀の偉業堂々完成!」「その内容において世界最新、且つ最高のものであります」「ここに出版界未曾有の頒布方法を実施し、その急速な普及を期待する次第であります。ご家庭にとっては、ながく貴重な財産となるばかりでなく、わが国文化向上に欠かせぬ基本財であることを信じて疑いません」と価値ある書物であることを幾重にも訴える広告文が添えられている。全巻購読でまとめて代金を払う読者には、専用書架と立体模型地図「日本総図」もプレゼントという太っ腹。なお、平凡社の広告では「世界大百科事典」の隣に各方面の事典類が28種類列挙してあり、誠に壮観である。  他にも「世界史大系」(全17巻+別巻索引、誠文堂新光社)や「原色動物大圖鑑」(全3巻)、「原色昆虫大圖鑑」(全3巻、以上は北隆館)、「思想学説全書」(第1期哲学者編、社会科学者編、全55巻)、「講座日本近代法発達史」(全14巻+別巻)、「講座現代芸術」(全7巻、以上は勁草書房)、「ゴーリキー選集」(全5巻、青木書店)など、全集やシリーズものがひしめく紙面は、なんだかまぶしい。  今後もときどき広告に目を向けてみるつもり。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)