千葉真一、南へ
沖縄映画研究会(世良 利和・名嘉山 リサ・藤城 孝輔)編
雑賀 広海
日本映画が生んだ世界的アクションスター、千葉真一。本書は、彼が残した膨大な作品群を沖縄と台湾――日本本土にとって南方の他者――の視点から捉えなおそうとする、少し意表をつく論集本である。
なるほどたしかに、千葉が出演する映画には何らかの形で、とくに沖縄がくりかえしあらわれる。そのなかでも『沖縄やくざ戦争』が千葉と沖縄の関係を強固なものにした記念碑的作品として位置づけられる。第一章は、本作を軸として千葉のフィルモグラフィが整理されており、そのあとに続く論考のための適切な導入となっている。第二章には二〇一六年に実施された千葉と中島貞夫へのインタビューが収録され、千葉自身がいかに沖縄の文化や歴史に関心を抱いてきたかを熱く語っている。
ここまで読み進めると、沖縄に魅了された千葉は一体沖縄の何に引きつけられ、そして映画俳優として、あるいは映画製作者として、どのように沖縄を描きだしているかという問題に一読者の関心は向かう。しかし、第三章以外はこの問題からいささか外れており、書名に反して千葉は必ずしも論考の中心的テーマではない。
『沖縄やくざ戦争』を扱った第五章、『麻薬売春Gメン』二部作を扱った第六章はともに、一見すると典型的な東映の娯楽作品のなかに本土側の立場を批判する沖縄側の視点が潜んでいることが丁寧な映像分析から明らかにされる。第七章は一九六〇年代の台湾映画では日本との合作作品が少なくなく、その一例として『カミカゼ野郎 真昼の決斗』に言及しながら、当時の台湾映画産業の新たな側面に光をあてようとしている。それぞれは興味深い論考であるが、これらの論考で言及される作品については、千葉が主体的に関わっていたというより、選んだ作品にたまたま千葉が出演していただけというようにも読めてしまう。重要なのは一九六〇~七〇年代の東映作品で沖縄が関係する作品をリストアップしたとき、無視できない数の作品に千葉が出演していることではないだろうか。ハリウッド映画『キル・ビル』にハットリ・ハンゾウとして出演した千葉に注目した第三章のように、千葉のスターイメージにもとづく論考が一九六〇~七〇年代の日本映画論においても必要だったのではないかという疑問が読後に残る。
第一章によれば、千葉が武術アクションを披露するようになるのは『ボディガード牙』以降のことである。奇しくも本作と同じ一九七三年にブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』が日本で公開され、日本でもカンフー映画ブームが巻き起こり、香港映画が続々と輸入される。その人気にあやかって千葉や東映は露骨にブルース・リーを模倣しつつも、カンフーではなく空手、柔道、合気道など日本の武術を使用した。
ブルース・リーと千葉を比較したとき、武術家でもあったブルース・リーのアクションには真正性が宿るのにたいし、千葉のアクションは香港の映画スターを模倣すればするほど皮肉にも虚構性が際立つ(合理的なリーのアクションにたいし、やや過剰な「見せる」動きをする千葉に近いのはジミー・ウォングであろう)。香港映画と比べたとき、作り手側も千葉の虚構性は商業的に不利に働くと見てとったのではないか。そして、この虚構性をカバーするために、脇を固める役者に大山倍達などの「本物」を用意したり、せめて物語上だけでも南方の他者と結びつけたり、といった方法がとられたという推測もできる(しばしば中国人を演じた志穂美悦子にも同様のことが言える)。つまり、ブルース・リーに並びたつ日本のアクションスターというイメージに真正性を付与するために、千葉は南へ、南方の他者へ動いていったとも考えられる。そこにナショナリズムをめぐる興味深いねじれがある。ナショナリズム的な運動が国家の外へとはみだし、多文化混交を果たす。さらには『キル・ビル』における表層的で「チージー(安っぽい)」なイメージを許容し、記号化したニッポンジンを演じる。
日本映画と香港映画の差異はアジア圏を出るとそれほど重要ではなくなる。その混同に抗いアメリカで中国武術の独自性を訴えたブルース・リーのように、千葉もまた日本の武術アクションをナショナリズムに傾きながら探求していたように思える。とはいえ、本書収録のインタビューで香港アクションをとりいれた実写版『るろうに剣心』を「本物」のチャンバラではないと一刀両断する千葉には苦笑してしまう。彼自身も他者のイメージを借り受けていたはずなのに。(さいか・ひろみ=神戸学院大学ほか非常勤講師・香港映画研究)
★せら・としかず=法政大学沖縄文化研究所国内研究員・沖縄映画研究会代表・沖縄映画史・映画・アニメ批評。
★なかやま・りさ=和光大学教授・沖縄映画研究会事務局長・アメリカ映画研究・沖縄映画研究。
★ふじき・こうすけ=広島大学大学院准教授・沖縄映画研究会運営委員長・沖縄映画研究・アダプテーション研究。
書籍
| 書籍名 | 千葉真一、南へ |
| ISBN13 | 9784909544476 |
| ISBN10 | 490954447X |
