2026/09/18号 6面

「読書人を全部読む!」46(山本貴光)

読書人を全部読む! 山本貴光 第46回 トランジスター判全集  本紙や「図書新聞」(2026年3月終刊)などの書評紙では、1年の半ばあたりにさしかかると、上半期の収穫はどうだったかを振り返ったりする。なにしろ毎日毎月のように新しい本や雑誌が刊行されることもあり、適当なところでそんなふうに振り返ってみないとすぐに分からなくなってしまうものだからありがたい。  いま読んでいる1960年の「読書人」はどうだったか。そう思って見てみると、329号(1960年6月13日)2面に「上半期の出版界」という記事がある。大きく「書籍」と「雑誌」に分けて動向を記してあり、いくつかの見出しがアクセントになっている。書籍については「小型版全集の流行」、雑誌のほうは「音、音、音、…でにぎわう」という見出しが最も大きく、それぞれポイントを落とした字で「日本、世界、児童 文学全集がひしめく」「月刊、別冊など10余誌と付録」と添えてある。雑誌のほうはどうやらソノラマシート、レコードを付録につける雑誌が目立つという話のようだ。  全集大好き人間としては、やはり書籍の動向は見逃せない。どれどれと記事を読んでみると、昨年から引き続き全集ブームという見立てのようだ。今年に入ってから新たに発行された全集の月別点数(東販調べ)として、1月(6)、2月(13)、3月(9)、4月(16)、5月(17)とある。合わせて61点! この数字が具体的になにを指しているのかは特に説明されていないものの、1960年に入ってから新たに創刊された全集の数と思われる。  今後は個人作家の全集が出ることも滅多になくなるのではないかと囁かれるようになって久しい昨今からするとにわかに信じがたい数字かもしれない。だが、国立国会図書館のデジタルコレクションで調べてみると、全集と冠した本の出版点数は、大まかには昭和のはじめあたりから1960年代に向かって年々増加してきた様子が分かる(ただし戦時中を含む1940年代は減少する)。  実際、いま見ている号でもここに書名を並べるだけで紙幅が尽きると思われるくらい、たくさんの全集が挙げられており、なんだか現在とは勢いが違う。目立つのはやはり文学方面の全集類で、新潮社、河出書房新社、平凡社、筑摩書房その他から出た日本文学全集や世界文学全集をはじめ、漱石、菊池寛、チェーホフ、エリオット、シェイクスピア、トルストイ、ゲーテなど、作家の全集も多数並んでいる。  ものによっては1960年に新たに始まった新潮社の「世界文学全集」(全50巻)のように第1回配本のカミュの巻(第39巻)やそれに続くフランソワーズ・サガンの巻(第42巻)が11万から12万部という景気のいい数字がついている。カミュはこの年のはじめに自動車事故で亡くなり、本紙でも追悼記事を出していたのが思い出される。  先ほど見た見出しに「小型版全集」とあった。これは「トランジスター判」とも呼ばれたもので、小B6判に相当するサイズ。私も後にそのおこぼれに与ったというか、古本屋でよくこれらの全集を買ったものだが、小ぶりでちょっと縦長の造本はどこか瀟洒な印象である。  と書いているところに、新潮社から『村上春樹WORKS』(全16巻)が刊行されるというニュースが目に入った。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)