読書人を全部読む!
山本貴光
第22回 戦争と宇宙旅行と
1959年1月12日(257号)の「読書人」で、荒正人(1913-1979/46/評論家)による宇宙旅行の可能性についての問いが載り、次号(258号)では、指名された3人の専門家が回答を寄せている。その回答を眺めているところだった。改めてお三方の名前を挙げると、糸川英夫(1912-1999/47/東大生産技術研究所)、原田三夫(1890-1977/69/科学評論家、宇宙旅行協会)、小倉真美(1907-1967/52/「自然」編集長)という面々。
6つの質問のうち4つまでを見た。残る質問5と6はどうか。質問5は「アメリカとソ連のロケット技術の優劣と世界平和の関係について」というもので、糸川は「国防の専門家でないから自分にわからない。防衛庁に聞いた方がいい」と答えている。原田は米ソの技術に差がついたとしても戦争にはならないと見ている。なぜなら「希望的観測だが、宇宙に眼をむけ、月に行くとなれば戦争なんか馬鹿らしいということになろう」とのこと。
これについては残念ながらと言うべきか、月や火星に行こうかというこの時代にも、人類は新たな戦争や紛争を起こし続けて止む気配はない。他方で、これらの回答が掲載された時代からの大きな変化として、この後1960年代に入ってからキューバ危機のようなそれこそ危機的状況もありながら、最終的には1991年のソ連崩壊によって米ソの冷戦は終わりを迎える、というのはご存じの通り。
質問6は日本が宇宙旅行に参加するための条件、軍事科学と切り離して宇宙旅行を研究するにはという内容。前者については原田も糸川も、日本は理論面で協力してゆくべきだと答えている。日本が自前でロケットを打ち上げる段階になかったという背景があるようだ。また、後者については軍事と切り離すのは難しく、「大きな立場から戦争をなくすよう努力する」(原田)、「地球人としての立場から研究」(糸川)という回答。
ところでもう1人の回答者、小倉がここまで登場していない。どうしたのだろうと先を読むと、小倉の回答だけ別にまとめられている。その冒頭で、質問1から4までは「専門家でないからと辞退」とある。
その上で、現状では戦争になればさし違えゆえ、ロケット技術の優劣は「平和維持にとって根本的には重要な条件にならない」と質問5に答えている。すでに原水爆が存在する状況を思えば妥当な指摘だ。また、日本の宇宙旅行参加については、米ソが別々にやっている間は参加不可能。その前に諸々の問題のクリアに少なくとも30年はかかると見ている。なにより「日本には、そうしたことの研究に費やすよりもっと解決しなければならない問題がたくさんあると思います」とのことで、宇宙旅行というテーマそのものを批判する立場のようだ。
ついでながら、この方面については2024年に翻訳が出たフレッド・シャーメン『宇宙開発の思想史 ロシア宇宙主義からイーロン・マスクまで』(ないとうふみこ訳、作品社)が示唆に富む本だった。なぜ宇宙を目指すのかについて、ロシアや欧米における見方を窺い知ることができる1冊である。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)
