日本で女性研究者が増えない理由
中野 円佳編著
矢内 琴江
本書は、大学に依然として残る男性中心的な環境や組織風土の現状を、大学院生や研究者へのインタビューから明らかにするとともに、改善に向けての提言を行う。
編著者である中野円佳氏自身が東京大学多様性包摂共創センターDEI共創推進戦略室准教授であり、本書のベースとなる調査実施時は、同大学の男女共同参画室の所属だった。他の執筆者についても、アカデミアにおけるジェンダー問題に研究としてだけではなく、職務としても向き合っているようだ。こうした執筆者らの「現場」の感覚は、本書全体に通底する問題意識や課題意識、現実に根差した提言からも読み取ることができる。しかし本書で取り扱う問題は大学にのみ関わるわけではなく、「属性にかかわらず、学び、研究し、キャリアを築くことができる場」をどのように創出していくのかという社会全体で取り組むべき人権問題として提示されている。
本書の「第1章 日本女性研究者の現状」によると、日本の女性研究者比率がOECD諸国で最低という現状に対して行われた文部科学省の支援事業は、一定の効果を見せたものの、依然として「男性支配」の研究環境は残っている。それでは当事者たちは、どのようにこれらの困難を経験し、そして意味づけているのか。本書は2つのインタビュー調査(「第2章 六八人の人生から――研究の方法と対象者」)の結果からこの問いに迫る。まず東京大学大学院博士課程出身者への調査を基に、「第3章女性博士課程大学院生の研究室ネットワークにおける困難」では、女性大学院生の研究室ネットワークへの参加を阻害する要因と促進する要因を明らかにする。次に「第4章 なぜアカデミアを離れたのか」では、ライフイベントがキャリアの決断の障壁になっていることが、男性の場合には見られず、女性の場合にはライフイベントに加えて、複合的な要因の重なりの中で、不本意に非アカデミアのキャリアを選択している実態を指摘した。そして「第5章 ライフイベントの中の困難――どう回避し、乗り越えるか」では、ライフイベントによる困難の経験には男女で質的な相違があることや、困難への対処法について述べている。さらに、「第6章 女性限定公募は解決策になるか」は、女性限定公募により採用された女性教員へのインタビュー調査が基になっている。近年多くの大学で、女性研究者が増えない問題への解決策として「女性限定公募」が導入されている。ここでは「日本特有のアファーマティブ・アクション」と述べられ、先行研究の蓄積も少ないことから、当事者の声を基に現状と課題を明らかにする。以上を踏まえて、最後に今後に向けた女性研究者支援の提言が示されている。なお本論以外にも、アメリカの動向に関する補論なども掲載されている。
本書で特徴的な点は、第3章から5章にかけて「東京大学で、女性研究者が増えない理由」を明らかにした点であった。地方国立大学では、あるいは私立大学では、どうだろうか。また本書が何より鮮烈に示したのは、「女性研究者が増えない」という事実は数字上の問題ではなく、そこには誰かの人生があるということだ。すなわち、誰かが子どもの看病のために自分のキャリアを不本意に諦めざるを得なかったり、継続しようにも誰の後押しもなく孤立し意図せず研究の中断が長引いたりしている現実の存在だ。著者も指摘しているように、アカデミア側はこの現実と向き合ってこなかった。おそらく研究室の日常では、「最近、あの人見ないよね」「あの人研究辞めたらしいよ」といったコミュニケーションがなされ、看過されてきたのではないか。
大学が取り組むべき課題は多い。著者らが示した提言は示唆に富む。しかし本書で示された課題を克服していくには、各機関での取り組みには限界がある。国の施策や制度改革なしには、抜本的な解決はないことを最後に付言しておきたい。(執筆=中野円佳・久保京子・九鬼成美・木原友紀)(やうち・ことえ=早稲田大学文学学術院准教授・教育学・ジェンダー)
★なかの・まどか=東京大学准教授・ジェンダー・教育社会学。著書に『「育休世代」のジレンマ』『教育にひそむジェンダー』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』など。
書籍
| 書籍名 | 日本で女性研究者が増えない理由 |
| ISBN13 | 9784272350667 |
| ISBN10 | 4272350668 |
