2025/10/24号 6面

「読書人を全部読む!」11(山本貴光)

読書人を全部読む! 山本貴光 第11回 「読書人WEB」の読み心地  この連載を書くにあたっては、「読書人WEB」を利用している。1958年の創刊号から現在までの全号をブラウザ経由で閲覧できる仕組みだ。このおかげで私のような怠惰な人間でも、全号を読むという作業に取り組めている。  こうしたデジタルアーカイヴがない場合、バックナンバーを読もうと思ったら、どうするか。当然といえば当然のことながら、現物やデータを揃えている場所へ赴く必要がある。「週刊読書人」を揃えている図書館や資料館を訪れて、読みたい号を申請し、書庫から取り出されてきた現物か、場合によってはマイクロフィルムで閲覧するわけである。  以前、「読書人WEB」について大澤聡、吉川浩満のお二人と鼎談した際、大澤さんがそのようにして現物で通覧したと話していたのが思い出される。それ以外に手段がなければそうする外にないわけだが、実際にやりおおせるには相応の覚悟や忍耐を要することで、条件さえあれば誰にでもできる類のことではない。  ところでウェブ版で読む場合、どんな環境を使うかによって、読書体験もだいぶ違うものになる。私の場合、自宅のデスクトップパソコンにつないだ31・5型のディスプレイ(横長)で読んでいる。この画面サイズは、「読書人」を横に寝かせると、一面がなんとか画面に収まるくらいの大きさだ。このように比べてみると、新聞がそれなりに大きな紙片であるという実感も湧いてくる。  さて、「読書人WEB」をしばらく使ってみての感想を述べてみたい。デジタル版がなんといっても便利なのは、通巻で3400号近くある「読書人」を比較的少ない手間で閲覧できるところ。仮に新聞そのものが全号分目の前にあったとしても、そこから目当ての号や記事を探し出すだけで大変な手間がかかる。その点、「読書人WEB」では、人名や年代などで検索をかけられるので、手間はほとんど最小限度といってよい。コンピュータで検索することが普及して久しいが、こうした機能の便利さは何度でも強調したい。  他方で読み心地はどうか。紙面ビューアーを使うと、新聞の紙面をスキャンした画像として閲覧できる。試しにある号を紙面ビューアーで開くと、その号の1面全体が収まるサイズで表示される。先ほど述べた31・5型のディスプレイで表示すると、実物の1/4程度の大きさで表示されるから、そのままでは読めない。ただ、本文は読めない一方、比較的大きな書体で印刷されている見出しや広告の書名などが目に入るので、記事の配置や種類はこの状態で確認できる。  中を読む場合には、紙面をダブルクリックすると拡大される。私の環境では、体感で実物の1.5倍程度になり、ブラウザを画面いっぱいに広げた場合、新聞の横方向がちょうど全部表示される状態になる。縦方向は、紙面全体のうち1/3程度がディスプレイに表示される感じ。拡大縮小コマンドを使うと、7段階程度でサイズを調整できる。眼の状態、ディスプレイとの距離、周囲の明るさなどで読みやすさも様々だと思われるが、私の場合、読むときには最大サイズにして見ている。  こんなふうに、ときどき「読書人WEB」の使い心地についてもレポートしてみるつもり。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)