日常の向こう側 ぼくの内側 740
横尾忠則
2026.5.25 〈妻が台所で倒れて嘔吐する。救急車を呼ぶのが先か、それとも徳永へ連絡するか〉。夢だがあまりにも現実的だった。この夢を妻に話すと気にするので話さなかったが、アトリエに徳永から、妻が倒れて嘔吐したので救急車で玉川病院に向うと電話あり。今朝の夢がそのまま現実になってしまった。だからカタール博物官庁議長のシェイカ・アル・マヤッサさんとリモートでの会話は中止して、相島とタクシーで玉川病院へ。様々な検査の結果、不明な点が多く、入院して調べながら治療の必要があると判断されるが、本人は入院を拒否している。帰宅すると再び同じ状況が起こる可能性ありと、先生に説明されて、やっと本人は納得した。
13年間毎日鈍痛で苦しんだ足の親指の骨折の痛みが突然取れたことに奇跡的なことってあるのだと驚く。
2026.5.26 批評家・美術史家のM・ゴメスさんがいよいよぼくの伝記を書き始めるために、質問状を準備したので答えてほしいと。
急遽、妻が退院するというが、また嘔吐して倒れるのではと心配していたが、案の定、退院の準備中に再び嘔吐する。今回のぼくの予感は全て的中し、心配していた通りのことが起こり、再び検査。本人も断念して再び入院を希望しているそうだ。どうみても完治しているように思えない。
2026.5.27 ぼくの定期診断のために妻が入院している玉川病院へ。3人の先生の診断を受けるが問題なし。終って妻の病室へ。今日は抗生物質を使って症状が落ちついているが、白血球の数値が下るまで退院はできないので少なくとも今週いっぱいは退院できないそうだ。逆に安心する。
自伝、『未完で生まれて未完で生きて、未完で死ぬ』のゲラ校正をするが、途中で飽きたので止める。
2026.5.28 極度の疲れでアトリエのソファで横たわっていたが、突然下痢を起こしたあと少々落ちつく。便秘で悩んでいたのになぜ下痢? 人間の躰は神秘?
2026.5.29 一晩中今日描く予定の絵に取りつかれた夢で疲れた。
村上20号、岡本11号、でも大谷の9号の方が大きい見出しになるのはなぜ?
糸井重里さんとシルクスクリーンの牧島さんら5人来訪。「ほぼ日」マンガ部のシルクスクリーンのポスターについて牧島さんの取材。
夕方、徳永と来週退院予定の妻の見舞に。来週月曜日に退院が決まったそうだ。
夜、人気のお好み焼屋があるというのでテイクアウトするが、本場のお好み焼の味を知っている者にとっては、これで満足している東京の人は可哀想。
2026.5.30 朝、突然具合悪くなる。水野クリックへ。過敏性腸症候群で自律神経失調症とか。
ニューヨークのフリードマン・ベンダ画廊で、過去の作品を小品化したものを集めた個展の依頼あり。反復を特徴とする作品に興味があるので、この個展はぜひ受けたい。アトリエで目下制作中の遺作集シリーズと並行して描くことになるが、このニューヨークのシリーズは小品なので自宅の2階を急遽アトリエにすることにする。そのために二間続きが必要になり妻の寝室とぼくの寝室を交換する必要がでてきた。午前中と夕食後はこの反復シリーズの制作時間に当てる。絵も二刀流で自宅とアトリエも二刀流。目下制作中の遺作集シリーズと、このニューヨークでの小品個展作品が恐らく人生の最終作品になるだろう。
2026.5.31 日曜だがスタッフの協力で2階にアトリエと寝室の設置。同時にぼくの寝室を妻の寝室にリニューアルの作業にほぼ一日中かかる。新しい生活のスタートに興奮する。ぼくの寝室が妻の寝室になるが、妻が部屋中に大谷の写真などを装飾しているので、すでにこの部屋は妻の間になることだろう。環境を変えることで新しい生活と創造ができるかと思うとエキサイトしてきた。今夜は46年間寝た寝室の最後の夜になった。(よこお・ただのり=美術家)
