- ジャンル:連載
- 著者/編者: アンソニー・エリオット
- 評者: 伊藤左将
書評キャンパス
アンソニー・エリオット『デジタル革命の社会学』
伊藤 左将
現代に生きる私たちの周りにはたくさんのデジタルメディアが溢れかえっており、生活空間にも深く浸透している。このような環境がどのように自己のアイデンティティを変容させているのかを考察するのに、本書は卓越した一冊といえよう。
本書はロボット工学や、ビッグデータ等のAI、オートメーション化の発展など、デジタル革命により、アイデンティティや社会がいかに変容しているのかを明らかにしている。そして、AIがもたらす監視や自動化などのある種のディストピア的側面と、新たな自己像を提示するというユートピア的な側面を指摘している。
本書の中から特に重要な主張と思われる2点を取り上げたい。
まずは、デジタルメディア内に個人のアイデンティティが投影され、いかに自己が生成されているのかという点に、深く切り込んでいることだ。現代社会では人間が、AIとの間に、ある種の関係性を構築しているかのように思える。それは、コミュニケーションをする主体が人間に固定されるのではなく、むしろ、AIなどのデジタルテクノロジー(対象)がいかにして人間(自己)に影響を与えるのかという次元で考察することがより重要であるということに通じる。
そして著者は、多種多様なデジタルメディアが氾濫する現代社会において、我々は他者と接続されやすくなったと同時に、分断されやすくもなっていると主張する。人間は接続や分断を繰り返すデジタルメディアの、クモの巣のように張り巡らされたネットワークに引っかかっている。そしてそれらの多様なデジタルメディア内に自己を見出すことで、個々のアイデンティティが変容していくというのだ。
また著者は、副題の通り、デジタルテクノロジーがもたらすユートピアとディストピアについて追究していく。たとえばAIの発達により、ある一定の職業に従事する雇用者や、職業自体が削減される可能性がある一方で、デジタルテクノロジーの発展により、さらに求められる仕事もあると指摘する。
重要なのは、デジタルテクノロジーを善悪という二項対立的な議論で捉えるのではなく、何かを見せると同時に何かを隠す性質をもつという、表裏一体の次元で考えることだ。生成AIは人間にとって目覚ましい発達であり、私たちの生活をより便利なものにする。しかし同時に、その根拠を疑うことなく、AIから入手した情報があたかも自身の発話であるかのように振舞うことで、コミュニケーションの変容が起こる。そうした目には見えない、表象されない背面に着目していく必要があるという。
著者は一国の文化に固執することなく、異文化を越境しつつ、デジタルテクノロジーによる自己への影響を考察している。
筆者の身近なところを振り返っても、昨今は多くの学生が、学校の課題に生成AIを使用している。こうしたテクノロジーは非常に便利で、学生は疑問点をAIによって即時的に知ることができる。その点を考えると、人間とAIが共存するユートピアな未来が到来するかもしれない。しかし同時にその裏側には人間がAIに従属する非人間的な世界というディストピアの可能性が隠されてもいる。
本書を通じて、多くの学生が意識せずに日々使用しているデジタルメディアについて、またそれを通じたコミュニケーションについて、見直す契機になることを願う。(遠藤英樹・須藤廣・高岡文章・濱野健訳)
※プロフィールは応募時のもの。
書籍
| 書籍名 | デジタル革命の社会学 |
| ISBN13 | 9784750353920 |
| ISBN10 | 4750353922 |
