2026/08/07号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 749(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 749 横尾忠則 2026.7.27 朝、何んか変。日頃感じない心臓の鼓動が聞こえる。水野クリニックで心電図をとるが異常はない。  昼に瀬古利彦さん来訪の予定を体調不良のため延期して貰う。  東野圭吾さん60代で死去。自己のキャパを超えられたのでは。『ドラゴンボール』の鳥山明さんも同様の運命を感じる。 2026.7.28 玉川病院へ入院の手続きに行くが、いつもの個室が来週でないと空かない。取り合えず入院のための採血、心電図、レントゲンをとる。レントゲンの撮り過ぎに被曝が心配だというと、カテーテル手術の方がもっと被曝していると聞かされ、ゾッとするが、カテーテルより飛行機に乗る方が被曝は大きいらしい。飛行機はほとんど乗らない。 2026.7.29 妻の誕生日。夫婦共に90歳代までよく生きられたと感謝感激。  一晩中、便秘に苦しみ、なすすべもないと思った時、「水」と直感して、飲むとウソみたいに解消。直感は神なり。  中村メイコさんが亡くなって初めて神津善行さん来訪。「女房が近くに来るんですよ」と。帰り際「向こうで会いましょ。待ってますよ」と何度も反復。96歳とは長命。  パリのポンピドゥー・センターの館長から朗報のメールあり。  ロンドンのマーク・ホルボーンさんから、画集の次は「美術を語る」本を出したいとメール。  村上二塁打、大谷23号と見出しに出るが、岡本の24号は無視? なんで?  夕食後、食欲ゼロの妻が床に倒れて起き上れず、床で寝てしまうが、深夜、突然起き上って2階の自室へ。 2026.7.30 ヘトヘトなのに朝食の用意をしてくれたが、妻が再び倒れる。徳永が来て救急車を呼んで、妻を玉川病院へ搬送。点滴の結果、かなり回復したらしい。予約していたぼくの病室に妻が入ることになるらしい。代ってぼくは近くの介護付き老人ホームに入ることにして手続きに行く。来週火曜日に入居の予定。  糸井重里さんがパルコの「初めての90歳! 90のポスター展」が終ったセレモニーだといって、渋谷から成城まで駅伝でやってくる。この酷暑の中、ほぼ日のスタッフは異常に若い。入場者が1万人で、1000人以上が寄せ書きしたというカードを持参。全部読むのに1時間かかった。  妻の入院に立ち会ってくれていた徳永が夕方帰ってくる。かなり回復したとの報告あり。食欲が出るまで入院するといい。という自分も食欲がなく、躰が浮わついた感じで、不安。これじゃ夫婦そろって、老衰の途をたどってしまう。  誰もいないわが家でポツンといるのは実に不安だ。次の瞬間、何が起こるのか考えたくないけれど、考えてしまう。 2026.7.31 美美が玉川病院へ妻の見舞いに行くというので、そのつもりになっていたが、徳永から電話が入って、中嶋名誉院長さんと話して安心したのか、見舞いに来られるより、ゆっくり休みたいと言っているというので急遽中止する。  夕方までアトリエで描きかけの絵に筆を入れたり、久し振りで読書。金星から地球に転生したという女性の宇宙人の手記。  夜は無理しても食べなきゃと増田屋から天重を風間にテイクアウトしてもらう。 2026.8.1 早朝2度ばかり電話があるが多分妻からだ。携帯電話の扱いがわからないのだろう。こちらから掛けても通じない。  電話の掛け方がわからないらしく、徳永が介護士さん経由で妻と話したそうだが、病院嫌いの妻が当分の間入院を続けたいと言っているそうで、一安心だ。 2026.8.2 『文學界』に発表する自伝を書き始める。『未完で生まれて未完で生きて、未完で死ぬ』自伝は、0歳から21歳までが未完なので、自伝の前半を書くことにした。後半もいつか書けるといいけれど。(よこお・ただのり=美術家)