American picture book review 113
堂本かおる
つばさ
主人公の少年の名はイカロス・ジャクソン。ギリシャ神話のイカロスIcarus をIkarusと綴り変え、舞台も現代のニューヨークを思わせるアメリカ都市部の黒人地区に置き換えてある。神話のイカロスは蜜蠟で固めたつばさを得て自由自在に空を飛べるようになる。有頂天になったイカロスは父親の忠告を忘れて太陽に近づき過ぎ、蜜蠟が溶けて墜落し、死んでしまう。そこから傲慢さへの戒めの物語と解釈されることもある。
だが、本作のイカロスは生まれながらに持つつばさのために、非常な孤独に追いやられる。物語はイカロスが移り住んだ街で始まる。空を飛ぶイカロスを見た人たちが「あの奇妙な少年を見ろ!」と指差す。それを見たある少女は、イカロスを変わり者とは思わなかった唯一の住人だ。以後、この少女が物語の語り手となる。イカロスが少女の通う学校に転入してくると、学校中の生徒がイカロスのつばさに目を向け、あれこれ言い、クスクス笑い、授業にならない。とうとう教師が、そのつばさをなんとかするまで戻ってくるなとイカロスを教室から追い出してしまう。
途方にくれたイカロスは校庭でバスケットボールをする子どもたちを見つけ、空から舞い降りてボールを得てシュートする。これで友だちになれると思ったのだ。ところが子どもたちはイカロスが空を飛べることをひけらかしているのだと怒る。どうしていいのかわからなくなったイカロスはアパートビルの屋上に座り込んでしまう。
イカロスをそっと見守り続ける少女は、自身も口数の少なさ、もの静かさゆえに周囲に馴染めないことからイカロスがいかに傷つき、寂しい思いをしているかを察している。けれどイカロスをからかう人たちに向かって声を上げられずにいる。少女はそれを悔やみながら、密かにイカロスを見守る。そして自問する。他者と違っていることは、それほどまでによくないことなのだろうか。
屋上にいたイカロスを路上の警官が怒鳴りつけ、イカロスがやむなく地面に降りてきた時に野次馬の子どもたちが笑い声をあげた。この時、少女はついに叫んだ。「やめて!」「彼のことはほっといて」。子どもたちは嘲笑を止めた。少女はイカロスに向かって言った。「あなたの飛翔は美しい」。これを聞いたイカロスは、この街に来てから初めて微笑んだ。
少女は他者と自分のために勇気を奮い起こすことを学び、少女とイカロスは他者と異なることは何も間違っていないと確信し、あるがままの自分を受け入れ始めるのだった。
本作は2000年に初出版され、以後四半世紀にわたって物語もイラストも古びることなく、ロングセラーとなっている。著者のクリストファー・マイヤーズは児童書の作家であると同時にタペストリーやステンドグラスも制作するアーティストであり、本作『つばさ』も切り絵/コラージュによるイラストを自身で手掛けている。マイヤーズの父親は、かつて邦訳版も出されていた『ニューヨーク145番通り』などで知られる著名な児童文学作家のウォルター・ディーン・マイヤーズ。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
