2025/11/21号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 716(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 716 横尾忠則 2025.11.10 〈パリの有名レストランの大きいテーブルに絵を描く。がプレゼントする〉夢。  フィリップ・グラスの「MISHIMA」の映画の最終チェックをする。まあ、こんなとこかな、とこの仕事は終る。  おでんが大量の液体を吐くので徳永が動物病院へ連れていってくれる。食べた物が胃にストーンと落ちないので立って食べるために食卓を高くする。  台湾の新竹市美術館からY字路の出品の依頼があるが、徳永は話が通じないので止めときましょうと言う。  ビジネス社より「自分への旅」と題した語り下しの単行本の依頼。この手の依頼は既に何冊もあり、似たようなテーマのもの多し。 2025.11.11 首の痛みが日に日に改善していくようだ。結局自然治癒におまかせするのがいいようだ。  周辺で転倒して大ケガをする人が続出。老人の流行性転倒症かも。  本など滅多に買わないが椎名誠の『続々 失踪願望。』が病気の話が中心と知って買う。耐えられないような病気を耐える椎名さんに勇気づけられて、『続 失踪願望。』も買うが、こちらは病気話はなく、テレビの「開運!なんでも鑑定団」でぼくの「腰巻お仙」のポスターが200万円の値がついたという話が書かれていて嬉しくなるが、余談ですが、その後アメリカのオークションで1000万円を超えたというニュースが耳に入る。 2025.11.12 仲代達矢さん死去。「椿三十郎」「用心棒」の仲代さんは忘れられない。お嬢さんがその昔、ぼくの龍源寺の絵画教室の常連で、お父さんの仲代さんの肖像画の傑作を描いたことがあった。  大リーグに代って毎日大相撲を観ている。安青錦、豊昇龍、大の里しか興味ないけど。客席の中の美人探しももうひとつの楽しみ。 2025.11.13 〈広い旅館のトイレが汚物で使用できない。仲居さんが言うには有名な映画監督が酒を飲んでいるからという〉。  塚田さんがニューヨークで、フィリップ・グラスからぼくへのCDとカードのプレゼントを預かってきたと届けてくれる。世田谷美術館の「連画の河」展のカタログを解説しながら1時間もかけて見ていたと話す。 2025.11.14 大谷が3年連続MVPを獲得。ロバーツの監督賞は1票も入らなかったらしいが、当然。ロバーツが余計なことをしたために、山本の2勝をフイにして、サイ・ヤング賞が取れなかった。またホームラン争いをしている大谷を土壇場で出場させなかったり、ロバーツの責任は大。  夕方から東京オペラシティホールにフィリップ・グラスの「MISHIMA」を観に行く。館内の巨大スクリーンに三島の肖像画などの映像を映すが、二次加工された絵の映像化には心配していたが、観客の中で泣く人が続出したと聞いて驚く。三島の肖像画が怖くて泣いたのかな? もし次回にチャンスがあればもっと満足な映像ができそうな気がするが。帰宅10時過ぎ。 2025.11.15 昨夜の疲れで寝坊をしてしまった。  次作は何を描くのだろうと思っている時、ふと子供の頃、家にあったアルバムに貼られていた一枚の外国のポルノ写真を想い出したので次回作というか遺作のテーマは性しかないと直観。老齢の健康法はこれに限る。人間というか芸術家の最後のお務めはこれしかない。ピカソやデュシャン、北斎も見習え。彼等の見納めはこれ! セクシュアリティほど遺作にふさわしいテーマはない。 2025.11.16 11月中旬だというのに暖かい。不味いとんかつ弁当を買ったが、今日の夕食はステーキだと知って、半分で止めた。  午後遅く横浜から南さん来訪。スイスの土産だとチョコレート。話している間に暗くなってしまった。補聴器の電池が切れて会話の言葉が飛び飛びにしか聞こえなくなったままAIの話になる。最近、誰と会ってもAIが話題になる。AIは結果を問題にするが、人間が問題にするのは、そこに至るプロセスではないのか。(よこお・ただのり=美術家)