日常の向こう側 ぼくの内側 752
横尾忠則
2026.8.24 食欲がないのは病院の出す6種類の薬のせいでは? AIに聞くとその直感は大事だが、「3食きちんと」を捨てて、1日何度も分食して栄養補助食品か流動食で水分、塩分、エネルギーを補給してはと言う。
0歳から21歳までの自伝100枚を『文學界』の豊田さんに入稿。「横尾さんと読者の間のズレの修正が必要」と言うが、むしろ読者との不一致こそが重要である。
2026.8.25 昨日は久し振りに体調回復かと思ったが、やはりダウン。相変らず食欲不振。妻も同様。高橋睦郎くんがわれわれ夫婦を励ましてくれる熱い便りは嬉しい。彼の健康管理は、どうも創作意欲の積極性? これからが本番だと、意欲的。
妻の定期診断で玉川病院へ。主治医がびっくりするほど入院前より全てが良くなったらしい。
夕食は長男の作ったスパゲティの差し入れ。食べたことのない味で、思わず過食する。そのせいか深夜に胸焼け。
2026.8.26 ぼくは終日アトリエで無為だけれど、周囲はあわただしく、人、物、事が激しく流動している様子は、まるでディズニーのアニメの魔法使いの弟子がタクトを振っているようだ。
パリ、ロンドン、ニューヨーク、カタールから目まぐるしく入ってくるメールの対応に、怠惰な身体的感覚が活性化してくれる。
2026.8.27 草間彌生さん96歳で死去の第一報は時事通信、朝日新聞、読売新聞、NHKから。最初に頭に浮かんだのは、何度も会っているのに彼女とのツーショット写真がないことに、まるでミーハーみたいに「惜しいことをした」と思う。
今月で退社の吉村千彰さん、ご主人の弁護士と来訪。ここ数年頭を悩ましているのは財団法人の件。「何のため?」にするか、しないかの考えがあって、ないようなもの、に漠然と憑りつかれ、悩まされている。
2026.8.28 国書刊行会の清水さん来訪。2028年予定の個展のカタログや、展覧会を伴っての出版物の企画、計画などについてミーティング。先々に予定が入ってくると、延命せざるを得ないプレッシャーにも同時に襲われる。入ってくる予定はこちらの寿命のことなど全く無関係に容赦ない。
オーストリアからピアニストの滑川真希さんが、オーストラリアでの演奏会が終って、その足で来訪。フィリップ・グラスの「MISHIMA」のピアノ演奏のCD、ジャケットなど3種のカバーデザインの依頼を受けているが、その打合せを忘れてしまって、彼女はオーストリアに帰国してしまった。
2026.8.29 身心の便秘に悩まされていたが解消。
気温が低いのか、肌寒いくらい。土曜日で来客なし。ウィークデーは毎日来客でつまっているが、来客のない日は何か間が抜けたようで、実に退屈だ。来客の間をぬって、絵を描いたり、文章を書いたりする方が、うんと能率が上がるのはなぜ? どうもわざと逆らって、反対の言動をとってしまうのは、子供の頃と変らない天の邪鬼の性格そのものだが、芸術とは本来こうしたものではないのかね。
夕食は久し振りに妻の力作。少しは元気になったのかな。
7時頃になると、おお黒に代って白い猫で顔半分が黒くいたずら描きされた猫がやってくるようになったので、毎晩エサを与えているが人間に慣れてないらしく、実に怖がりだ。それにしても妻の愛猫おお黒はいっさい姿を見せない。おでん以上に老齢だから、もうこの世にいないのかも知れない。人も死ぬけど猫も死ぬ。
2026.8.30 昨日は英、今日は美美と日替り運転でアトリエへ。曇天でむし暑い。
先日、0歳から21歳で結婚するまでの初期の自伝を書いたが、50歳以後今日までの自伝も残しておこうかな、という気持もあるが、近年立て続けに出版した日記が実は自伝でもあると考えれば、別に書く必要もないかも知れない。他にエドワード・ゴメスさんが伝記執筆中だし。(よこお・ただのり=美術家)
