- ジャンル:翻訳小説
- 著者/編者: ジェイン・オースティン
- 評者: かげはら史帆
ジェイン・オースティン著『説得』
かげはら史帆
オースティンは恋愛リアリティショーの祖ではないか、と思っている。魅力的な男女が出会ってもつれて読者をハラハラさせるところも、ゴールが「幸せな結婚」なところも、似たりよったりのストーリーに見えてぜんぜん違うところも。ヒロインは知性派、堅物、陽キャ、世話焼き女子まで勢揃い。
本作『説得』のヒロイン・アンの属性は「年増」である。十九歳の頃の婚約者とは親からの猛反対で別れ、二十七歳に至るまで独身のまま。かつて厳格だった親の態度もすっかり変わり、いまでは娘が結婚できなかったらどうしようと心配している始末(あるある)。アンはそんな親を責めることなく、ただ心の内で「人間の努力を侮辱して神の意志を疑うような、行き過ぎた用心深さ」に中指を立てる。オースティンのヒロインたちは言語化が上手で、だからつい応援したくなる。
昨今のリアリティショーに食傷気味の人は、ちくま文庫のオースティン・シリーズで、自分にとっての「神回」を見つけてほしい。(中野康司訳)(かげはら・しほ=文筆家)