2026/04/17号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 734(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 734 横尾忠則 2026.4.6 夜、ベッドルームから廊下に出るといきなりおでんの強烈な尿の臭いが鼻をかすめたが、しばらくすると消えていった。以前バーゴが死んで数日経った頃、玄関の土間から尿の臭いが襲ってきたのでホースで水を撒いたが、臭いは霊的なもので、水は物質、しばらく尿の臭いは残ったままだった。その前はいきなりベッドルームにキャットフードの缶詰めの匂いが部屋いっぱいに広がったことがあった。  朝日新聞の書評担当の星野さん来訪。特に用はなし。  新しい医師から処方された薬の副作用で、この間から下痢になったので服用を中止する。 2026.4.7 アトリエと自宅のアプローチの道路を原色で改修する。現代建築は白か灰でモノクロームが定番だが、味気ないので建物などをカラーフルにした。修復工事は元磯崎新事務所の吉野さんだが、パリでコルビュジエのアトリエを訪ねたところ、今は建築で多彩色(ポリクロミー)が見直されていると知って、ぼくのアトリエが多彩色であることに、気を強くされたようだ。  やはりパリから鹿島茂さんのメールあり。毎日新聞に『運命まかせ』の書評を書いて下さったが、ぼくが幽体離脱して、さらに上方から俯瞰した感覚の文であるとの批評だった。  保坂和志さんの小説『鉄の胡蝶は』を装幀したので見本ができたと講談社の松沢さんと来訪。小説の装幀は2、3年前、山田詠美さん、その前は村上龍さん、筒井康隆さん、半村良さんとそんなに多くはない。 2026.4.8 晴天なれど風強し。今年の桜は例年に比べると風に強く、まだ満開日が続く。  妻の定期診断に付き添いで行く。この前はかなり悪化していると心配していたが、養生に励んだせいか、今回はうんと改善していてホッとする。快気祝いに妻の好物のうな重の夕食。一人前を二人で分食。  午後はすっかり風が止み、初夏のように暖かい。 2026.4.9 足の親指の痛みが延々続いているので靴下を履いて寝ていたが、うっとうしいので脱ぐ。すると痛みが取れているのがわかった。何でも過保護はよくない。  〈地方から帰ってきたけれど、まだ事務所に連絡していないのは、街で知人に会って時間をつぶしたせいだ〉。未だに夢に出てくる事務所はうんと昔の建物の事務所ばかりが出るのはなぜ?  赤身の魚や肉がいいと医者から言われているので昼は神戸屋へ。  新潮社の葛岡さん来訪。『運命まかせ』がアマゾンで70何位で、100位以内に入るだけで大変なことだと報告に。何が大変なのかな。  帰宅と同時に庭のウグイスがいい声で鳴いていた。  テレビの3時間番組で、長寿者が健康に熱中して、一日歩いたり、体操したり、皆んなでワーワー話したり、モーレツに頑張っているのを雑用をしながらなんとなく見てしまったが、長生きが目的なんですか? 2026.4.10 この間から薬の副作用に悩まされている。便秘と下痢の相反する症状に身体はメチャクチャ。月曜日は別の病院の先生を訪ねて相談しよう。  「週刊新潮」の連載エッセイが今年の日本文藝家協会の「ベストエッセイ」に選ばれる。今年で4年連続。 2026.4.11 今日のドジャースvsレンジャーズ戦は最高に面白かった。9回表、同点にされたドジャースのマンシーがなんと今日3本目、サヨナラホームランで逆転勝利。 2026.4.12 今日は便秘薬を止める。どうなるかな。  ドラクロワvsデュシャンの17点目を描く。他の作品とガラリと変る。自分でも見たことのない絵になるが、同じモチーフで手法を変えてもう一点描くのも面白いかも。絵は描けば描くほど下手になるが、この下手が新境地を開いてくれるのである。(よこお・ただのり=美術家)