2025/09/19号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 707

日常の向こう側僕の内側 No.707 横尾忠則 2025.9.8 早朝、ドジャース戦を見る。大谷が菅野から2打連続ホーマー48、49号。  頭がむしゃくしゃするので午前中にjabでシャンプー。高倉健さんは毎日シャンプーをしていたが、精神衛生上これに限る。毎日は無理だけど週1ならOK。  GQで細野晴臣くんと対談。彼とは10数回対談しているけれど話の内容は同じ。歳を取らないのか成長が止まっているのか。多分お互いに変った話をするのが面倒臭いだけだと思う。  ポール・デイビスにエリック・フィッシュルの絵が好きだと言ったら、彼に伝えたらしく、フィッシュルも「ヨコオに興味があると言っているよ」とメールあり。やっぱりこっちが興味ある人間は向こうも興味を持ってくれているんだ。  吉行和子さん(90)死去。彼女とは何度か会っているけれど、いつもファーとした印象だ。 2025.9.9 愛知県美術館の副館長の長屋さんと元館長の南さん来訪。何かやれないかなという可能性を探るミーティングを。 2025.9.10 新聞の広告にフィリップ・グラスと三島由紀夫とぼくの写真が並んで出ている「MISHIMA」というバレエの公演に、ぼくが舞台美術を担当すると出ているが、そんな話、聞いたことがない。徳永に「これって何?」と聞いたら、以前に舞台美術の打合せで、ぼくが完成形を確認したと聞かされるが、「そんなことあったかな?」と思うが、「ちゃんとやっている」と言われるので、やっぱりやっていたんだ。これって認知症かな?  南天子画廊の青木さんが10月の個展に出品する版画作品を取りに。このこともちゃんと憶えとかなきゃ。  玉川病院へ定期診断へ。全く問題なしといわれるとやゝ不満。近代医学のあと、東洋医学の鍼灸院で鍼治療。 2025.9.11 ベネッセの福武英明理事長と笠原良二さん、但馬智子さん来訪。豊島横尾館の改修工事を要求する。特にシンボルの塔を赤いレンガに変更。これはキリコへのオマージュ。庭の糸杉はベックリンへのオマージュ。 2025.9.12 イギリスの雑誌MONOCLEより老齢で活躍するアーティストという企画で取材に。外国人から見ればぼくは若く見えるので老齢とは信じないと思うけど。  日本橋高島屋にアトリエの来客用ソファーを設置するので、そのインテリアの相談に来てもらう。  ロシアの大手出版社から、エッセイ集『飽きる美学』の出版のオファーあり。ロシア語翻訳なのに全世界が対象らしい。日本人アーティストの独自な人生観に興味を持ち、日本研究者や美術評論家を招いた出版記念イベントの開催も考えているという。2、3年前にロシアの美術館での個展には神戸の美術館の学芸員に代行してもらったけれど、ロシアには行ってみたいが、体力の問題があるね。  日本芸術院の事務長植垣さんが高齢祝賀会員にと記念品と賀詞の額を持参。新芸術院会員の推薦者をノミネートするが、誰も落ちてしまう。一体誰を推薦すればいいのか。 2025.9.13 今朝の朝日新聞の『入門講座 三島由紀夫』の書評は難しすぎると妻はいう。三島の美と肉体と死については難しく書くことが最も三島の理解につながるのだからしゃーない。  曇天。暑いのか、涼しいのか、よくわからない変な季節感覚だ。季節だけでなく体調も健康なのか病気なのかよくわからない。描きかけの絵もいいのか悪いのか、上手なのか、下手なのかよくわからない。これからはよくわからないことばかりが増えていきそうだ。 2025.9.14 早朝にアトリエで出張鍼治療。首の痛みが慢性化すると困るが、全く見通しがつかず。他にも見通しのつかない事象が沢山ある。結局は見通しのつかないまま人生は終るのだろうな。(よこお・ただのり=美術家)