2026/02/06号 1面

前嶋和弘インタビュー<世界の覇権国から地域の覇権国へ>現在のアメリカ政治の動向について

前嶋和弘インタビュー 世界の覇権国から地域の覇権国へ 現在のアメリカ政治の動向について  1月3日、米・トランプ政権がベネズエラに軍事侵攻し、ニコラス・マドゥーロ大統領を拘束したという衝撃のニュースが飛びこんできた。うってかわってその後、グリーンランド領有の意向を強調するなど、トランプ政権は何を狙っているのか。現在のトランプ政権の思惑について、上智大学教授の前嶋和弘氏にお話いただいた。(編集部)  ――トランプ政権によるベネズエラ・マドゥーロ大統領の拘束があり、その後もグリーンランド領有の意向を強調するなど、米国起点の国際情勢を揺るがす事態が今年の年始早々から頻発しています。前嶋さんはここ最近のトランプ政権の動きをどうご覧になりますか。  前嶋 一言でいうと、「このことをずっとやりたかった」ということでしょう。「公約」として第二次トランプ政権の発足から1年間準備をしてきた。1年どころではない。むしろ浪人時代の4年間、あるいは第一次政権の4年間を通じて、ずっとこれをやろうとしていたわけです。なので、ここにきてトランプ政権の外交安全保障における最終的な方向性がはっきり見えてきました。  では、トランプ政権が目指す外交安全保障とは何か。ここでは4点ほど紹介します。  1つ目は、昨年12月に発表した国家安全保障戦略で示された、西半球を重視するという方針。これは、アメリカ・ファーストと力による平和の組み合わせですが、アメリカ第一主義を西半球全体にまで広げることで、「西半球は全て米国のホームフロントだ」という認識になりました。そして自分の裏庭で何かあれば武器の使用も辞さない、と。そういった方向性は今回のベネズエラ侵攻からも明らかです。  2つ目は、西半球を重視していくことで、東半球は米国にとって大きなポイントではなくなりました。たしかに東半球には、同盟関係の欧州や日本もあるし、中東もあります。あるいは今後成長が期待できるアフリカもありますが、今までのように重視しないということです。とはいえ、東半球の同盟国がある地域で現状変更が起きるのはまずいので、そこは当該の国に相応の負担をしてもらう。たとえば中国に現状変更の動きがあれば、日本と韓国が対応していかざるをえない。このように、東半球において米国の負担を減らし、米国人の血は流させない。その代わりに、同盟国を中心に米国製の武器や防衛装備品を買わせて自分たちの経済的利益を確保するという立ち位置を取ります。  とはいえ、現在、東半球で動いているものもあり、それこそ年始にイランで起きた大規模なデモは、米国にとっては降って湧いたような話でした。そして、東半球で最も重要な同盟国であるイスラエルをイランから守るために介入すべきか検討中の段階です。このように、東半球の中の大切なものを守っていく意思はあるので、まだ完全に引くことはできないものの、引いていく姿勢に変わりはありません。  3つ目は、米国が東半球から引いていくことで、最終的に中国が東半球の中心になります。ロシアではありません。米中露の3ヵ国による新ヤルタ体制ではなく、中国が東半球のトップ、米国が西半球のトップという「G2」の関係性で動いていくことになるでしょう。この先、中国は倒す相手ではなく、同盟国を使って牽制しながら共生していく相手として見ています。問題点を長期的に管理していくライバル関係と言えばいいでしょうか。基本的には米中間で適宜交渉・妥協していく流れに向かうと思います。もちろん、トランプ政権の安全保障チームの中に対中強硬派はいますが、ここのところ西半球重視派に押されてなかなか声が上げられず、今に至るという見方もできます。  4つ目は、トランプ政権の外交安全保障にとって国際機関は不必要なものですから、これからは加盟している国際機関からどんどん抜け、最終的には国連からの脱退もあり得るかもしれない。国連については最終的にどうなるか定かではありませんが、少なくともそのあたりまで視野に入れていると思います。  今声をあげているグリーンランド領有という話も、国際機関や同盟関係を重視する立場に立てば、実現不可能なバカバカしい話です。ところが、西半球重視のスタンスを堅持するなら現実のものとしてしまうかもしれない。結局のところ、トランプ大統領にとってグリーンランドを領するデンマークなんて、所詮、東半球側にあるNATO内の弱い同盟国でしかないという感覚なんでしょうね。  ――今のお話からトランプ政権の大戦略が見えてきました。  ここからは、ベネズエラ侵攻の意図についてお聞きします。今の西半球を重視するという方針において、今回ベネズエラに対して取った措置というのは、どれほどのファクターを占めていたのでしょうか。  前嶋 ベネズエラ侵攻をめぐって、大きく3つのファクターが考えられます。  その中で特に大きいのは、ベネズエラはホームフロントなのに中露と関係が近い上に、米国内に麻薬を送りつけてくるわ、難民を送りつけてくるわで、要するに目の上のたんこぶだったんですね。なお、ベネズエラから来る難民というのは、マドゥーロ政権に反発して国を脱出した人たち、つまり民主化を求める人たちです。こういう人たちが米国に渡ってきて、バイデン政権の最後には難民として受け入れたのだけれども、トランプにしてみれば難民による負担は面倒くさい。マドゥーロが嫌で国を出たのであれば、マドゥーロさえ追い出してしまえば、ベネズエラ難民を追い返すことができるという算段もあるのだと思います。  次のファクターが、石油利権の確保ですけれども、取ってすぐに石油で儲けられるわけではありません。けれども、埋蔵量が多いので今後の利益を考慮して、ということです。  3点目は、ベネズエラを叩くことでのドミノ効果を期待しています。ベネズエラはキューバとつながっているので、ベネズエラを叩けばキューバも干上がる。それによって西半球の中の反米国家を潰すことができます。反米国家ということで言えば横のコロンビアもそうですが、マドゥーロを追い出した直後にコロンビアのペトロ大統領はトランプに命乞いの電話をしています。  また、トランプはメキシコに対しても攻撃を仕掛けることを匂わせていて、穏健なシェインバウム大統領はその圧力に屈しはしないものの米国にだいぶ気を使っています。トランプ政権もさすがにそこまではやらないようには思えますが、このように匂わせることで相手はビビってくる。加えて、グリーンランド領有に対する本気度も示せる。このような波及効果が生じるのです。  ところで、ベネズエラ侵攻にはいくつか問題点もあります。トランプ政権はデルシー・ロドリゲスというマドゥーロ派やチャベス派に近い女性政治家を暫定大統領に選出しましたが、果たしてこの人物がどこまで米国人の関与なしにうまく統治してくれるか。トランプ政権がロドリゲスに期待しているのは、マドゥーロ派、チャベス派の一掃です。体制派と関係が近く、その弱みを知っているロドリゲスならその役割をうまく果たしてくれるだろう、と。一方で、一般に期待された反体制派でノーベル平和賞受賞者のマリナ・コリーナ・マチャドだと、まだ政権に従事した経験もないし体制派と戦ってしまうので、うまく統治できないだろうという計算もあったのだと思います。  逆に言うと、ロドリゲスが機能しないことには、ベネズエラが混乱した時に米軍は介入せざるをえないし、そうなると米国人が血を流す。このロドリゲスをどこまで信用できるかまだわからず、今後の見通しが不透明だということが1つ目の問題点です。  2つ目の問題点はそのことに関連して、仮にベネズエラの統治が失敗して米軍が本当に入ることになると、アフガニスタン、イラクの悪夢の再来になります。そして、3つ目の問題点は、ここで失敗したら前述のドミノ効果が止まってしまい、西半球を重視していく機運が萎んでしまうことです。そうなると、再び中国に目を向けることになるかもしれません。  いずれにしても、トランプ政権にとって一番叩きやすく効果が上がりそうだったのがベネズエラだったので、マドゥーロを追い出すための準備をずっと進めていました。  ――準備はいつ頃から進めていたのでしょうか。  前嶋 昨年の9月段階ですでに空母打撃群を配備し、米領プエルトリコからベネズエラに向けていつでもミサイルを発射できるようになっていました。そうやってどんどんプレッシャーのレベルを上げて、マドゥーロが自分から出ていくよう仕向け、クリスマスまでは待ってやったというところでしょうか。当のマドゥーロもトルコへの亡命を画策していたけれども、実現しなかった。それにより、年始のマドゥーロと中国の高官が会談した数時間後の拘束劇に至ったという流れです。  もっと言うと、第一次トランプ政権の時からマドゥーロを追い出すことは頭にあったし、バイデン政権もマドゥーロに退任を迫っていました。そのため歴代政権が長年にわたりインテリジェンスを送りこんで情報を収集していました。その蓄積があったからこそ、こんなにも簡単に、大した抵抗にも合わずに作戦を遂行することができたのです。  よく、今回の侵攻は中間選挙を見据えてのことだとか、あるいはエプスタイン文書というスキャンダルを払拭するためだと指摘されます。たしかに、そういった面もあったかもしれません。でももっと単純に、ベネズエラに仕掛けるチャンスをずっと狙っていて、いいタイミングだと思って実行したのがちょうど今だったということなのではないでしょうか。  それに、トランプ政権は後先考えずに実行したという言われ方もしていますが、ロドリゲスを暫定大統領に据えたところを見ても、作戦の遂行までかなり練って、用意周到にやった。だからこそ、今のところ目立った混乱は起きていません。  ――トランプ政権以前の米国政府はベネズエラのことをどう思っていたのでしょうか。  前嶋 米国にしてみれば、チャベス政権(1999―2002、2002―2013)の時にベネズエラ国内の米国企業が開発した資源を国有化したので、自分のものを取られたという感覚です。もちろんそれ以前に、よその国で勝手に資源を開発したわけだから、ベネズエラの人たちにすれば米国は許しがたい。そこで、自国民の救済、貧富の解消をうたって、チャベス大統領は21世紀の社会主義に舵を切った。その路線を継承したのがマドゥーロでした。  そういう経緯で出来た社会主義体制を叩くという意味も今回の侵攻にはあって、それによってトランプ政権の応援団の福音派は喜びます。なぜなら、福音派にとって社会主義はサタンなので。ですから、支持者へのアピールという点でも今回の侵攻は悪い手ではないのです。  ――今回の侵攻を受けて、米国内ではどのような反応を示していますか。  前嶋 たとえば、しばしば引用される1月5日から7日にかけてのCBSとYouGovの調査(https://d3nkl3psvxxpe9.cloudfront.net/documents/cbsnews_20260107_1.pdf)を見ると、賛成48%、反対50%なので、米国内では今回の侵攻に反対の人の方が多いと言われています。ところがこの賛成の内訳をみると、共和党支持者の割合が89%、民主党支持者の割合が13%という、分断状況のおなじみのパターンです。ただ、有事だからか民主党支持者の支持がいつもの1~2%とかでなく13%なので、それなりに上がっている。  あと、日本で時々見受けられる見解に、共和党支持者の中には今回の侵攻に慎重な人がいて、特にMAGAが反対しているというものがありますが、実際はそうではなく、むしろMAGAの方が応援しています。前述の調査の共和党支持者全体の賛成89%の内、さらにMAGAを自認している人に焦点を当てると97%が支持しているので圧倒的です。対する共和党内の非MAGAの割合は80%でした。日本ではこの点がよく勘違いされています。  この傾向は、昨年6月に行ったイランの核施設への空爆の時も同様でした。同じくCBSとYouGovの調査(https://d3nkl3psvxxpe9.cloudfront.net/documents/cbsnews_20250624_iran_1.pdf)によると、賛成44%、反対56%。賛成の中の共和党支持者の割合は85%、民主党支持者の割合は13%、さらに共和党内のMAGAは94%が賛成している。だから、基本的にMAGAは何があってもトランプ政権を応援するのです。付け加えると、イラン空爆の時、MAGAの中のインフルエンサー的な役割のタッカー・カールソンあたりは慎重姿勢でしたが、今回のベネズエラに関してはそうでもなく、「米国はもう帝国になりましたから」みたいな発言をしていました。  もちろん、ベネズエラの統治がうまくいかず、それこそアフガン、イラクみたいなことになったら、賛成の割合はもう少し変わってくると思いますが、現状、支持者を変わらずに応援しているので、トランプにとっては上々の成果だったといえます。  ――このような相次ぐ軍事行動を通じて、なぜ自分の支持者たちから高い支持を得られ続けるのでしょうか。  前嶋 一言でいうとトランプが「有言実行」だから、です。公約通り国際法なんてバカげたものを無視して、悪い国のリーダーをやっつけた。さすが、トランプ。といったところでしょうか。  ベネズエラに関するCBSとYouGovの調査の続きで「マドゥーロの拘束は、世界におけるアメリカの立場をどう変えるか」というものがあり、全体を見ると「より強くする」が42%、「より弱くする」が32%、「特に影響なし」が26%で、「より強くする」の内、共和党支持者が81%、民主党支持者が13%なので、やはり大きく分かれます。     〈2面へつづく〉    〈1面よりつづく〉  ――日本では今回のベネズエラへの侵攻に対して、国際法を無視した蛮行であるという見方が強いと思います。  前嶋 日本や欧州にしてみれば、今回のことは国際法を無視した蛮行ですよ。何より欧州だったらウクライナ、日本だったら台湾のことが想定されますから。でも、米国民にしてみれば、それはあくまで欧州や日本の問題です。  この世論調査では、国際法に照らし合わせて、といった設問はありません。仮に入れてしまうと他の設問にも影響してしまうから入れないのだと思います。前述のようにその行動が賛成か反対か、その行動によって米国の立場をどう変えるか、といったことしか聞いていません。  同一の調査の中に、当該地域の――これはベネズエラ周辺あるいは西半球全体とも取れます――他の国々が米国に協力しない場合、それらの国々に米国が軍事行動をすることに賛成か反対か、という設問があります。全体の結果は賛成が33%、反対が67%で、賛成の内、共和党支持者は67%、民主党支持者は10%。反対の内、共和党支持者は33%、民主党支持者は90%と相変わらず割れています。ところが、この設問の中にも国際法云々という文言はありません。  ――とはいえ、他国への侵攻の是非を問う上で、国際法のことを想定しないのはいかがなものかと思います。  前嶋 我々からしたらそうです。しかし、これはあくまで米国民向けの世論調査であり、大統領の支持率調査も兼ねていますから、国際法の設定を立てると否定的な回答が多くなり、やはり他の設問に影響がでかねません。それに、こういった世論調査は何も思いつきでやっているわけでなく、事前にフォーカスグループ調査を経た上で、他の設問に影響が出ないように個々の設問を作成していると思われます。  もちろん、日本で似たような世論調査をしたら、当然国際法の文言は入ってくるでしょうね。でも、米国のこういった調査で国際関係と照らし合わせた内容を問う際は、国際法とは言わずに「アメリカの立場を強くするか、弱くするか」という設問の立て方になるのだと思います。  ――我々との認識の違いを痛感させられました。  前嶋 日本にとって大きいのは、今回の米国の行動によって、「今日のウクライナは明日の台湾・尖閣だ」と言いにくくなってしまったことです。中国が台湾に侵攻する際に、国際法に則って現状変更は許さないと言ったところで、同盟国の米国も同じようなことをやっているだろうと中国が反論してくるのは容易に想像できます。  ――この先の米中関係はどのような展開をみせるとお考えになりますか。  前嶋 米中関係をめぐる今後の大きな注目点は、今年4月の米中首脳会談がどうなるかでしょう。トランプが習近平国家主席と会い、米中のG2関係を確認して、米国は台湾とは関わらないと言った時点で、次のフェーズに入っていくだろうと思います。それを受けて中国が手荒な真似をするか、そうではなくハイブリッドな形でいろいろ仕掛けてくるか。あるいは、香港のように人を送って、時間をかけて制度を変えていくか。その3つのパターンが考えられます。案外、時間をかける方法がスマートかもしれません。いずれにしても、米国に手を出さないような状況を作っていくことでしょう。  もちろん、米中首脳会談の前に高市首相が会って、そうならないように釘を刺すとは思いますが、それでもトランプが台湾には関わらないと口約束でもしてしまったら、状況は大きく変わる。そしてトランプの場合、西半球重視の観点からそれを言う可能性は十分あります。  そもそも、トランプの口から「台湾を守る」と言ったことは一度もありません。むしろ台湾に対して、「米国から半導体を盗んだのだから、防衛したいんだったら自分たちでやれ」と。「GDPの10%くらいを防衛費にかけろ」と言ったことがあるくらいの認識です。  米中関係をめぐっては、昨年10月の米中首脳会談から潮目が変わったように思います。この会談により米中間での貿易戦争を手打ちにして、中国は1年間レアアースを売ることにし、またトランプ政権の支持者が多い米中西部の大豆などを買うことを決めました。そのついでに、トランプがいつも問題にしているフェンタニルも、中国側で対応することになりました。この成果にトランプは、米中間でいいディールが出来てとても良い関係になったのだ、と満足気でした。そして、中国に対して買い手としての力でねじ伏せることを諦めた様子なので、だいぶ状況が変わってきました。  もちろん、その関係性が完全に固定したわけではなく、現状、西半球重視派が強いけれど、一方で対中強硬派による中国牽制の動きはまだあるし、台湾との関係でいっても、米国が台湾を防衛する義務はないけれど、台湾関係法があるから武器は売る。なお、昨年は10月の米中首脳会談までは台湾に武器を売っていませんでした。それが終わってから売り出しているので、武器による支援をしている格好です。その動きに中国は形式上怒って、台湾を包囲した軍事演習を行いましたが、これは中国側もわかった上での出来レースでした。  一方、出来レースでなかったのが高市首相による存立危機事態発言で、これが出たのが米中首脳会談の直後でしたから、中国側は日本の公式見解である「一つの中国」という建前を超えた発言に相当怒ったし、トランプ政権にしてみても、せっかく中国と良好な関係になったのに、何勝手なことを言っているんだ、と。それを裏付けるように、トランプはFOXニュースのインタビューでこの発言について聞かれたときに、「米国と中国はいい関係だ」と「同盟国は友人ではない」と言っています。これは梯子を外されたというよりも、やはり米中関係のフェーズが変わったと見るほうがいいでしょう。高市首相にしたら、2015年の安保法制を経て、様々なシミュレーションをしてきたからこそのアドリブ発言でしたが、外交上の建前はありますので、あれは言うべきではなかったと思います。  ――いずれにしても、日本はこの先、米国に頼りすぎずうまく立ち回る必要がありそうですね。  前嶋 柔軟な外交、したたかな外交が求められるでしょう。とはいえ、そんなに簡単に変わるものでもないから、どう立ち回るかなかなか難しいところがあります。  基本的に、日本の安全保障は米国の動きの上で成り立っていて、日本単独では中国、ロシア、北朝鮮の軍事力とはイコールにならない。どうしても米国の核の傘と軍事力は必要です。だから、米国の変質で見通しが立てにくくなりますが、そこは中国とも関係を保ちながらうまくやっていくしかないのです。  最近、カナダが中国との関係を完全に復活する動きを見せていますよね。ファーウェイをめぐってあれだけ揉めていたので、この変化は驚くべきことです。そのような形で柔軟に動かないといけない時代になってしまった、ということです。アメリカに全幅の信頼を寄せられないながらも、それでもアメリカから梯子を外されないように努力しつつ、他の国との外交も強化していく。このようなしたたかな外交姿勢を、この先日本もしていかなければならない。  ――先程、イランの話題が少し出ましたけれども、昨年6月の空爆と違い、今回の年末年始のデモは降って湧いたような話だということですが、米国の関与はあったのでしょうか。  前嶋 おそらく米国もそうだし、特にイスラエルの関与が大きいだろうと思います。なぜなら、今回は公安側がデモ隊によってかなり殺されています。だとすると、誰かがデモ隊に武器を流していて、それは米国とイスラエルしか考えられない。あるいは、レザ・パーレビ元皇太子が「私も祖国に帰還する準備をしている」と発言したイランの人びと向けのメッセージ動画も出ましたが、あれは多分イスラエル発のものです。  今回のデモは12月にかけてだいぶ規模が拡大しましたが、この混乱に乗じて米国が本格的にイランに乗りこんでいくかというと、イスラエル側の準備がまだ整っていないと言われています。イランというのはベネズエラとは違い、強大な軍事力があり、インテリジェンスの部分もしっかりしている大国なので、仕掛けるにはイスラエルとの協調が不可欠ですし、向こうからの反撃も考慮しなければなりません。  実際、昨年6月の核施設空爆の際にもイランからの反撃はありました。ただし、イラン側としては事態を大きくしたくないから、米国に事前通達した上で行った。それによって、トランプは自身のSNSで「イランありがとう」と言っているので、結局は出来レースだったのです。  昨年のイラン空爆もそうですし、今回のベネズエラ侵攻に関しても、米国人の血が流れていないというところがポイントで、それによりアメリカ・ファーストの人たちはトランプ政権を非常に高く評価しているわけです。そうは言いつつも、ベネズエラに関しては今後の統治がうまくいくかどうかが評価の分かれ目です。  ――今日のお話をうかがって、ますますアメリカ・ファーストが強調されている印象を受けました。それに伴い、我々の認識を改めていかなければなりませんね。  前嶋 そうです。こうなるであろうと思われたことが、現実になりつつある。それは第一次トランプ政権のスタート時の「日米同盟なんてものはいつでも破棄できるんだ」といった発言まで遡ることができ、今は本当にそれをやってしまうかもしれない。この発言が出た時は、当時の安倍首相の助言もあり、中国を抑えていく上で日米同盟の意義を再確認しました。しかし今の状況というのは、米中はビジネスパートナーとして協力関係を結び、経済的利益は共有しつつ、仮に中国による現状変更の動きがあれば、そこに米国は深入りせず、代わりに同盟国の日・韓に対応してもらえばいい、という態度になりつつあります。  このように、米国は世界の覇権国から地域の覇権国に変貌を遂げつつあり、これは本当に大きな変化です。何よりトランプ政権としてはこれをずっとやりたかった。西半球重視のアメリカ・ファーストと力による平和、この姿勢がここ最近の動きには如実に表れています。     (おわり)  ★まえしま・かずひろ=上智大学教授・アメリカ学会前会長・現代アメリカ政治外交。著書に『アメリカ政治とメディア』『キャンセルカルチャー』、共著に『混迷のアメリカを読みとく10の論点』など。