日常の向こう側 ぼくの内側 741
横尾忠則
2026.6.1 妻が退院するが、こっちが入院したいほど原因不明の病気らしい病気に侵されている。かつて毎年一度は必ず入院して体調を元に戻していた時期があったが、久し振りに入院して健康管理をする必要がありそうだ。
ニューヨークのマーク・ベンダ画廊での個展作品は小品なので座机で描くために妻の寝室に隣接している和室をアトリエに改造するが、目下、制作開始のタイミングを計っている。
休み明けにはメールが山積。海外からのものが集中している。海外と関わっていると、常に異国の風景の中に意識が漂っている感覚にある。
2026.6.2 青土社の明石さんが数年振りに来訪するが、昔の顔と全然違う。彼もぼくをそのような眼で見ているに違いない。蓮沼執太さんの特集のために対談をする。
ニューヨークでの個展が決まって以来、三日にあげず画廊とのメールの交流に、気分は東京ではなく、ニューヨークの空気の中にいるようだ。この空気が絵を作るのである。
2026.6.3 目覚めると同時に気分悪し。脱水症状? スポーツドリンクを飲むが効果なし。
菅原洋一さん死去。郷里に近い加古川の出身。いつかNHKのテレビでぼくの郷里西脇での公開放送で一緒になる。鳳蘭さんといしだあゆみさんとも共演した思い出がある。
今日は台風襲来のため終日自宅入院。時には病人のふりをして休養する必要がある。まるで90歳の老人になったようだ。今月27日までは89歳だけれど。急に鯛焼が食べたくなって風間に喜多見まで買いに行ってもらう。尾っぽまでアンコの入った鯛焼は安藤鶴夫さんが四ツ谷の鯛焼には尾っぽまでアンコがあると絶賛したために全ての鯛焼が邪道に堕ちてしまった。尾っぽはアンコなしで、最後にパリパリと口直しの必要のためにある。安鶴さんが日本の鯛焼をダメにしてしまった。
2026.6.4 中京テレビの村地さんら4人来訪。OWARAIを世界に普及するための海外向けのポスターを描いたが、シカゴで海外初の英語でのOWARAIを公演した。熱狂するアメリカ人の映像に逆に日本の古典を観たような感じだった。近々浅草で外国人旅行者を対象にしたOWARAIが公演されることになりポスター展開の相談に。
楽天とDeNAの9回にDeNAホームスチールがアウトの判定。しかし審判のミスのためにDeNA7点差逆転勝ち。横浜球場は沸きに沸き、試合が終っても客は一人も帰らない。
2026.6.5 毎朝、昔の小林旭の時代劇「旅がらす事件帖」を観るくせがついてしまった。
鹿島茂夫妻と春陽堂書店の小島さん来訪。古書コレクターの鹿島さんにグランヴィルの挿絵の入ったオリジナル本を見せてもらう。こんな名著が、鹿島家には図書館のような収蔵庫に並んでいる。博覧強記の鹿島さんは知識の宝庫。
心配なのは妻が全く食欲がなくなって何も食べないのが深刻。
2026.6.6 晴。早朝からアトリエへ。絵を描いたり、文章を書いたり、飲んだり、食べたり、久し振りに散歩にならない散歩のマネなどしながら洪水で危険水域に達した野川へ。
2026.6.7 アトリエに行くが昼頃、小雨が降ってきたので、傘がないので自転車で帰宅するが、間もなく止んだので再びアトリエへ。
この間から描きかけの「Hadas」と題する絵を完成させるが、同じモチーフでサイズを変えてもう一点反復作品を描く。一作目とはガラリと変った二作目ができるが、どこで筆を置いていいのかわからない。瞬間、瞬間に絵は完成するが、さらに次の瞬間へと挑戦したくなる。絵は永遠に未完のままで終らない。絵には死がないのである。
成城の有名人のお屋敷の庭の樹木が巨大化して、庭が見事な森に変ってしまっている。(よこお・ただのり=美術家)
