2026/07/31号 8面

日常の向こう側 ぼくの内側 748(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 748 横尾忠則 2026.7.20 猛暑の中、自転車通勤は苦痛故に風間の運転でアトリエへ。  宮内勝典さん夫人喜美子さんから詩集届く。インドを通じて死が語られている。  体調不十分な昨今、死の想念に憑依されている。夫婦共々、食欲なく、このままじゃ老衰の途を辿ることになる。ここに至って急速に襲われるこの憔悴感に、かろうじて終末を呼吸している日々。  久し振りに穂村弘さん来訪。彼の質問魔につられて4時間話すが、身体的によく対応できたのは彼の不思議な好奇心エネルギーのせいかな。 2026.7.21 〈田名網 敬一と展覧会場で会うが、彼とは波動が全く合わない〉。  イギリスのテームズ&ハドソン社から500ページの超大型画集が完成したと送付される。まるでピカソかダリかウォーホルクラスの画家の作品集だ。他に5万5千円の超々豪華版など三種の異った版で出版される。  今年も4年連続日本文藝家協会の「ベストエッセイ」に選出される。 2026.7.22 玉川病院へ定期診断。夫妻共に食欲がなく、このままじゃ老衰するしかないのでは。食欲がなくてもスープでもおつまみでも、甘い物でもいい、とにかく口に物を運んで少しでもカロリーを取るように指示される。ぼくより妻の方が重症なので心配だが、ある日突然食欲にスイッチが入る人もいるそうだ。とにかく食べてくれると嬉しい。  平野啓一郎くん来訪。ニューヨークのMoMAのショップで買ったと、ぼくの「NEW YORK」の作品のプレートをお土産に。MoMAのデュシャン展で初期にポスターやグラフィック作品を沢山作っていたと教えてくれる。そういえばデュシャンのレディメイドはほぼ全作デザインである。  谷新夫人から土用のうなぎが送られてきた。妻の好物だから食欲が出るだろうと喜んだが、やはり一切れも食べられなかった。なんだか悲しくなる。  保坂和志さんから来るポストカードはいつも一気に6通来る。全篇猫物語ばかりだ。 2026.7.23 河出書房新社の岩本さんがテームズ&ハドソン社の画集の日本版を出版するのでその打合せに。来年6月に日本版が出る。  このところ疲労が日々激しくなる一方。人間は90歳代以上生きる必要はないように思う。  朝日新聞社の書評編集者の星野さん来訪。ビジュアル批評を入稿するがすんなりOKは出なさそうな予感。  カタール国立美術館に個展の資料を送ったが、戦争で郵便事情悪化のため戻ってくる。戦争が他人事でないことを知る。  玉川病院の名誉院長の中嶋昭先生が見舞いを兼ねて来訪。相撲好きの中嶋さんと自宅でテレビ観戦。相撲ファンの妻は仲間を得て多少元気になった様子。 2026.7.24 春陽堂書店の清水さん来訪。自伝の評判がいいので次回の出版を依頼される。書きだめがあるのでOK。人間はやっぱり90歳以上生きない方がいいというのは正解だよ。 2026.7.25 〈双生児が生まれた。先に生まれた児が弟だという。後で生まれた児が兄。2人がおかしいともめている〉夢を見る。  今朝から突然、立ち上ろうとすると膝がガクンと床に折れる。怖い!  日記を書いているとなぜか命を削っているような気がする。人生の時間を畳んでいくように思うからだ。  岡本23号大谷越え。 2026.7.26 〈仲間と山へ小旅行。皆と離れてひとりで動いて、雲隠れしてしまう〉夢。  人は天候に生かされていると思う。今日は午後から雨らしい。そんな悪天候に合わせて、アトリエ行きを中止して自宅で天候と張り合わないで共存することにした。  ところが一向に雨が降らないので、午後アトリエに行くが、途端に大雨。再び止む。気まぐれ天候に合わせているとこちらも気まぐれになる。  妻夕食に餃子5個、画期的食欲に万歳。  安青錦、三巴優勝決定戦で勝つ。相撲が一番元気の素。(よこお・ただのり=美術家)