働くことの小さな革命
工藤 律子著
渡邉 裕之
私が関わっている、ある生活協同組合が出している様々な社会問題を取り上げる雑誌が、表紙の裏(表2)に、「この雑誌は社会的連帯経済のガイドブックです」という言葉を載せるようになったのは四年前のことだ。しかし、その時はよくわかっていなかった。自分たちの雑誌が社会的連帯経済に関わったものだと納得できるようになったのは、コロナ禍の時期を通過した昨年からだ。
本書は、著者であるジャーナリストの工藤律子さんが、日本の社会的連帯経済を担っていると考える組織、労働者が経営者となって働く労働者協同組合(労協)、NPO、社会的企業、地域通貨を運営している銀行などを紹介している。が、そこで働いている人たちは「自分たちがしていることは、社会的連帯経済だったのか。確かに言われてみれば、まあ、そうだな」という感じではないだろうか。
この経済、はっきり言ってわかりにくいのだ(私はコロナによって今ある経済の国際的脆さを感じてから、なんとなく見えてきた)。
社会的連帯経済とは、大雑把にいえば利潤追求を最大目的とする資本主義とは違った、社会的利益のために人々が繫がってできていく経済のこと。フランスやスペインなど欧州ラテン系諸国、中南米などを中心とした世界的な動きだ。
先の組織の人たちが、「言われてみれば、まあ、そうだな」と思うのは、わかりにくさ、そして社会的連帯経済の考えや活動と自らの働く日常が大きく隔たっていると感じるからだろう。
私は、本書で紹介されているグループと同じような活動をしている人たちと多く出会ってきたが、ほとんどの人が低賃金、人手不足に悩んでいた。一企業の利潤追求ではなく社会的利益を目指す経済と、実際に働き出せばすぐに気づく悪しき労働条件・労働環境との大きな隔たりだ。
本書の第一章のタイトルは「自分を大切にする働き方」、二章は「次世代の働き方『協同労働』」になっている。そう、日本の社会的連帯経済を紹介するこのルポルタージュは、自らの働き方から出発するのだ。工藤さんも日本の現実に出会って、こうしようと思ったのだろう。
この日本で、社会的利益を目指す組織の働き方が意識されるようになったのは二〇二〇年に成立した「労働者協同組合法(労協法)」によってだ。労協とは「その事業に携わる労働者自身が自主的かつ自律的に事業を運営し、利益は個人のためではなく協同組合の活動目的に達成するために使われる非営利組織」。しかし、これまで労協法がないため、労協はNPOや株式会社としてしか活動できず、例えば株式会社だったら、利益が株主に配当されるという、運営目的とは全く違ったことが行われる大矛盾が現出していた。
そしてこの法律は、労協で働く人の働き方もしっかり見ている。具体的には、組合は事業に従事する組合員との間で労働契約を締結しなければならないとしている。社会的利益の追求とかカッコいい言葉を隠れ蓑にして労働者の権利が損なわれないようにしているのだ。
そう、資本主義的経済から外れていく生き方は、自分らしい働き方を自分の権利を意識して選ぶことがポイントだ。ここをスタート地点として、外国人労働者が高齢者介護で働くケアセンター、気持ちが穏やかになる職場であるという弁当屋、お金ではなく時間を溜めることで地域住民のつながりを保障する時間銀行などが紹介されていく。
出発点がよいから気持ちよく読めた。(わたなべ・ひろゆき=編集者)
★くどう・りつこ=ジャーナリスト。著書に『マラス』『ルポ 雇用なしで生きる』など。
書籍
書籍名 | 働くことの小さな革命 |
ISBN13 | 9784087213492 |
ISBN10 | 4087213498 |