2025/10/03号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 709

日常の向こう側 ぼくの内側 No.709 横尾忠則 2025.9.22 以前にも一度行ったことのある成城の信愛ホームの院長に鍼治療を受ける。あまり期待していなかったが少し楽になった気がする。  映画出演の依頼があるが絵以外に躰を動かすのが面倒臭い。大島渚の『新宿泥棒日記』以来、7、8本の出演依頼があったが、面倒臭いという理由で断っているが、その内2本は引き受けた。1本はポール・シュレイダーの『MISHIMA』。出る気はないけれど依頼されるのは悪くない。  アーツ前橋の館長の出原さん来訪。彼は広島市現代美術館、兵庫県立美術館の学芸員時代に何度か展覧会を開いてくれている。今後、西脇市岡之山美術館のサムホール大賞展の審査員をお願いしている。 2025.9.23 秋分の日、駅前のレストランでカレーを。もっと美味く作れないのかな。シェフの味覚に問題がある。  翁と媼のシリーズの2作目。両者を白い布で包んでミイラ化する。夫婦像の続篇である。夫婦はいずれ翁と媼になって、そしてミイラになる。 2025.9.24 〈西脇駅から神戸へ行こうと思い駅で切符を買おうとすると「老齢者を優先したいので後に廻ってくれ」という。「ぼくは老齢者だ」というと、「じゃ帽子を取って」というので帽子を取ると、「髪が黒くてふさふさしているので老人じゃない」という。「じゃ、スマホでぼくの歳を確かめてくれ」というと、「89歳はおかしい。スマホが壊れている」といってどうしても切符を売ってくれない。その内、電車がホームに入ってきて、とうとう乗れない〉という夢を見る。  〈高市早苗が新総理に決まる〉夢を見る。  今日買った巻寿司が信じられないほど不味い。コロナの味覚音痴はもう治っているのに。  午後に来客があるが、顔はわかるが名前がいくら考えても出て来ないが、本人がやってきて、あゝ、竹中直人さんだったと判明。彼のラジオ番組を局に行かないでアトリエで収録する。  午後、信愛ホームへ鍼治療。  やっぱりわが家のカレーの方が美味い。 2025.9.25 フィリップ・グラスの『MISHIMA』のプロデューサーと牧バレエ団の小泉さん来訪。その美術を担当するが演出家不在。これじゃ学芸会レベルのものしかできない。仕切り直しを要求。ムシャクシャするのでjabでヘアーシャンプーを。 2025.9.26 寝る前に、アトリエの物の断捨離を考えていたら、〈ビデオなどの整理を始め、2本を残して、20数本を捨てる〉夢を見る。昼と夜の区別のない生活は疲れる。  国内外の小さい展覧会が次々と開催されるらしく、それを知るだけで疲れる。黙って勝手にやって頂戴。  元集英社インターナショナルの社長の島地勝彦くん、40年振りで現われる。80幾つだというが若造りで身体中に骸骨の貴金属をぶらさげて、ぼくのデザインしたイギリス製の帽子とTシャツを着てレトルトのぜんざいと餅を持参。1年に1回位会いたいという。  有明けにテニスの試合を見に行った妻がお目当てのプレーヤーが出なかったと夜帰ってくる。 2025.9.27 昨日の島地くんのくれたぜんざいは不味かった。この前に送ってくれたカレーはあんなに美味かったのに。  週刊新潮の種井さんが昭和10年発刊の歴史画集をプレゼントしてくれる。編集部を掃除していたら出て来たので、と持参。 2025.9.28 この間まであったポストが撤去されてなくなった。成城中自転車で探し廻ってくたびれた。  今日は朝から絵を描くぞ、と張り切って早々にアトリエに入ったが、全然画欲が起こらず、週刊新潮の連載エッセイを書くが、すでに3ヶ月分入稿している。今日書いたのは新年号用。  大谷打席に立たず。  大の里優勝。(よこお・ただのり=美術家)