2025/10/10号 8面

日常の向こう側 ぼくの内側 710(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 No.710 横尾忠則 2025.9.29 〈知らない音楽家の自作の曲の楽譜に彩色の依頼を受ける。その曲を聴くが、悪くない〉という夢を見る。この夢と全く同じ夢を以前にも見たが、いつだったか思い出せないが、日記を見ればわかるかな。  銀行の人が来て、何の書類かわからなかったけれどサインをさせられる。  牧島くんに吉田カバンのシルクスクリーンの版画にサインをさせられる。  中国の天台山、寒山隠居の地の天台和合人間文創センターに寒山拾得の作品の展示の依頼あり。  夕方、信愛ホームで鍼の治療。 2025.9.30 〈平野威馬雄さんらしい人の立合いの元で排便をする。バナナの皮を剝いたような純白の便に、「神の便」だと言う声が聞こえる。何かの吉兆の予感〉という夢を見る。  フィリップ・グラスの「MISHIMA」の舞台演出家、振付師、映像技術師らと、舞台で見せる三島由紀夫関連の絵がどのように演出されるのか?  朝日新聞の星野さん、有田さん来訪。有田さんが死後生に興味があるので盛り上る。 2025.10.1 ポンピドーの美術のキュレイターのマルセラ・リスタさんがギックリ腰で来訪されず。同席の予定だった南さんと夕方まで話す。  帰宅すると妻が便所の窓から隣の家と家の間に巨大なタワーのようなオレンジ色の光体を見たと興奮しているが、お迎えが来たのかなと思ったようだ。ぼくなんか年中お迎えに来られている感じ。 2025.10.2 「翁と媼」シリーズ4作目を描くが、他の3作と違って、抽象形態を持ち込んでガラッと変化させる。  石橋財団の西嶋さん来訪。新しいプロジェクトの始まり?  ドジャース地区シリーズ進出。佐々木リリーフは好調。 2025.10.3 午前中、アトリエで描きかけの絵に満足できないので使ったこともない色で塗りつぶす。描いたり消したりを繰り返しながら、ある瞬間、思わぬ境地に達することがある。その境地というのは自分でありながら自分でない未知の自分に出合うことである。自分を超えるということは、一種の疑似死である。 2025.10.4 〈現在制作中の「翁と媼」の未完の部分に緒方光悦のイメージを導入したらどうかという発想が浮かんだ〉という夢を見るが、下手するとジャポニズムになりかねない。  午前中、アトリエでジョージ秋山の『貝原益軒の養生訓』を読むが、少々物足りないので本格的な古典の『養生訓』を読むが、これも物足りなく益軒の哲学の書である『慎思録』を読む。  新総裁に高市早苗が決定したそうだが、このことは9月24日の夢ですでに知っていたので、別に驚かない。本紙の9月24日の日記にすでに書いている。高市には興味がなく、小泉がなった方が、面白いと思っていたのに夢では高市だった。別に予知夢だとは思わないけれど他にもぼくと同じ夢を見た人がいるのかな。もー何人も、何十人も何百人もぼくと同じ夢を見た者がいたら、このことはやっぱり予知夢と言えるかも知れない。 2025.10.5 朝ドジャース戦を見ていたが、大谷いきなり3失点、打者としては三連続三振。今日は負け、と決めつけてアトリエへ。  制作中の「翁と媼」の絵の一部に写実的な西洋人の夫婦の肖像を描き入れるが、腱鞘炎のために手が震えて上手く描けない。ぎこちない素人の描いたような絵になってしまうが、下手も絵の内と認めよう。  ナ・リーグ地区シリーズ、ドジャースvs.フィリーズ戦、大谷勝利投手になったが4連続三振。佐々木ポストシーズン初セーブ。(よこお・ただのり=美術家)