編著者から読者へ
複合危機の時代に読む環境文学103選
城戸 光世
気候変動、戦争、感染症、災害、移住、差別や格差――私たちはいま、いくつもの危機が複雑に絡み合う「複合危機」の時代を生きています。こうした時代に、文学を読むことにどのような意味があるのでしょうか。本書はこの問いを出発点として、エコクリティシズム研究学会設立30周年を機に編まれた、環境文学のガイドブックです。
環境文学と聞くと、美しい自然を描いた作品や、環境破壊を告発する作品を思い浮かべるかもしれません。しかし本書が考える環境はもっと広いものです。人間を取り巻く水や大地、動植物はもちろん、戦争や植民地主義、感染症、ジェンダー、移住、放射性物質、そして人間と非人間との境界そのものまでが、私たちの生を形づくる「環境」なのです。
本書は、「ロマン主義的環境主義」、「エコゴシック」、「水」、「動物/生き物/植物」、「戦争」、「病/感染症」、「移住/越境/移動」、「環境とアクティヴィズム」、「エコフェミニズム」、「植民地主義」、「ポストディザスター/ポストアポカリプス」、「放射性物質の言説」、「気候変動」、「ポストヒューマン」という14のテーマを設け、それぞれのテーマごとに、古典から現代まで、英米を中心に世界各地の環境文学から103の作品を取り上げました。いわゆる文学作品だけでなく、新海誠監督の映画から、COVID19関連のコミック、ボブ・ディランの音楽まで、ジャンルを超えて幅広く環境に関わる作品が取り上げられています。読者は一見遠く離れて見える作品や問題も、読み進めるうちに思いがけないところでつながり、互いに響き合い始めることに気づくでしょう。
103作品を最初から順に読む必要はありません。好きな作家から、気になるテーマから、あるいは偶然開いたページから、読み始めてください。一冊の作品との出会いが別の作品へ、さらに別の問題へと導いてくれるはずです。
危機の時代に文学がすぐに答えを与えてくれるわけではないでしょう。それでも文学は、人間だけを中心に世界を見ることから少し離れ、異なる生や声に耳を澄ませ、世界の複雑なつながりを想像する機会を与えてくれます。文学はこの困難な時代を切り抜け、人新世の先の未来へと導いてくれる、羅針盤のようなものだと言えるのかもしれません。本書が、そんな羅針盤に導かれた新しい読書への入口となれば、編者にとって大きな喜びです。(きど・みつよ=広島大学人間社会科学研究科教授・19世紀アメリカ文学・文化研究)
書籍
| 書籍名 | 複合危機の時代に読む環境文学103選 |
| ISBN13 | 9784867801147 |
| ISBN10 | 4867801143 |
