American Picture Book Review 94
堂本かおる
『The Case for Loving: The Fight for Interracial Marriage』
著:Selina Alko
画:Sean Qualls and Selina Alko
(Arthur A. Levine Books)
上院議員時代、バラク・オバマはこう発言したことがある。「私は、私が生まれたときには12の州で違法とされていた異人種婚の産物です」 オバマ元大統領の母親はアメリカ白人、父親はケニアからの留学生の黒人だった。ただしこの発言時、オバマは数字を間違えていた。ハワイのホノルルでバラク・フセイン・オバマが誕生した1961年、アメリカで異人種婚を禁じていたのは12州ではなく、全50州の半数に近い22州であり、ハワイ州は異人種婚の禁止法を一切持たなかったわずか9州のうちのひとつだった。のちに異人種婚の是非が最高裁に持ち込まれ、全米で合憲となったのは1967年、少年オバマが6歳のときのことだった。
『ラヴィングのケース:異人種間結婚の闘い』は、異人種婚の合憲を勝ち取った実在の夫婦の壮絶な闘いを、シンプルな語り口とほほえましいイラストによって子どもにもショッキングでなく、純粋な愛の物語として伝える絵本だ。1958年、南部ヴァージニア州で白人青年のリチャードと、黒人と先住民の血を引くミルドレッドが恋に落ちた。出会いの瞬間から2人は結婚を考えた。リチャードがミルドレッドにプロポーズするページでは片膝をついたリチャードが指輪を差し出し、飛び上がって喜ぶミルドレッドは筆書きとコラージュによる、さまざまな色とテクスチャーのハートに囲まれている。しかし人種差別の激しいヴァージニア州では結婚できず、2人は異人種婚が合法の首都ワシントンD.C.で結婚し、ヴァージニア州に戻ってきた。するとある夜、警察が自宅に踏み込んだ。絵本では寝室の入り口に立つ警官と、驚いて飛び起きた2人のイラストとなっている。絵本にはもちろん書かれていないが、警察は2人の”異人種間性交”の瞬間を捉えるつもりだった。だが2人は眠っていたため、警察は違法な"異人種同居"として逮捕している。人種差別のなんと浅はかで愚かで醜いことか。
留置所を出たのち、ヴァージニア州にいられなくなった2人はD.C.に移り、そこで3人の子どもを産み育てる。しかし都会生活に馴染めなかった2人は懐かしい故郷ヴァーニアに戻るべく、法廷闘争を始めた。数年の闘いののち、最高裁に出廷する弁護士に法廷で読み上げるよう、リチャードはメッセージを託した。「私は妻を愛しています。妻とともにヴァージニア州に住めないのはアンフェアだと法廷に伝えてください」 このメッセージが書かれたページにもプロポーズのページと同様に、いくつもの異なる色のハートが描かれている。リチャードからミルドレッドへの愛だ。そのハートは、最高裁の合憲の知らせを受けて2人が微笑むページにも描かれている。ミルドレッドとリチャード、2人の姓は「Loving」ラヴィングという。名前の通り、2人はお互いを心から愛し、その愛を貫いたのだった。(どうもと・かおる=NY在住ライター)