2025/12/12号 8面

日常の向こう側 ぼくの内側 719(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 719 横尾忠則 2025.12.1 愛子さまの新しい猫みみ(美海)ちゃんが紹介されたけれど、思わずそのルックスにふき出してしまった。この子を選んだ愛子さまのセンスはさすが。  麿赤兒さんの「踊る。遠野物語」のポスターを描いたので公演パンフで麿さんと対談。彼とは前世紀の状況劇場以来だけれど、顔の変化がないのに驚く。 2025.12.2 久し振りに瀬古利彦さん来訪。瀬古さんからいつも駅伝関係のグッズが沢山送られてくるが、今日もPUMAのダウンジャケットをプレゼントされる。マラソンファンのぼくは根掘り葉掘りインタビュアーになって質問攻め。瀬古さんに会いたいという長男の事務所の女性達が大挙して押しかけて、瀬古さんの話に笑いころげている。アトリエの工事職人さん達も大喜び。  この間から便秘ならぬ尿秘に苦しむ。玉川病院の泌尿器科で精密検査の結果、前立腺肥大の範疇だけど深刻ではない。念のため前立腺ガンの検査もするが、こちらはOK。心配なのは呼吸器らしく、吸入器を勧められる。 2025.12.3 ニューヨークから一時帰国している平野啓一郎くんが、今晩発つ前にと弁当差し入れでやってくる。東京の道路がきれいなのに驚いたと外国人みたいなことを言う。三島ファンの彼とは結局、三島さんの話になるね。  おでんが食欲がなく動物病院に今日から入院。なんだか変なものを食べたらしく胃の中に異物が入っているので、それを取り出す手術をすることになるそうだ。 2025.12.4 ベルリン空港から今から帰国すると塚田さんからメール。  海外向けの自伝をと翻訳者の金子靖さん来訪。  おでんはお腹を少し切る手術をしたようだが、思ったより回復も早く、流動食も食べているようだ。手術でお腹にあった石灰化した固まりを取り出したので少しは楽になったようだ。食道の炎症が治まれば良いのだが、食道が伸びきっているが、伸びきってしまった食道は元に戻らないので、今後、吐かないでうまくご飯を食べることができるかが心配らしいが、病院でしっかりご飯を食べさせて点滴もして水分も充分に与えて、来週の検査の結果がでるまで様子をみてもらうことになった。 2025.12.5 〈10何世紀かの著者の小説が目の前に置かれているが、どうもおかしな次元に引きずり込まれているらしい〉夢を見る。  〈布団から足が外に出ていたらしく、おでんが、指先きを舐める〉入院中のおでんの夢を見る。  ママチャリを廃車にして、老人専用の自転車を購入する。慣れるまで時間がかかりそう。  午前中から、「ほぼ日マンガ部」のポスターを描く。上手いのか下手なのか、完成なのか未完なのか、そのどっちでもない絵を描く。  ベルリンから帰国した塚田さんとオーストリア在住のピアニストの滑川真希さんとそのご主人の指揮者デニス・ラッセル・デイヴィスさん来訪。そこへ北沢さんがベルリンの個展のポスター持参。来客全員から海外土産のチョコレートを100人分ほどいただく。  この前自転車で転倒して腰を打ったが日が経つにしたがって徐々に痛くなってきた。首が治ったかと思うと次は腰。 2025.12.6 終日、「ほぼ日」のポスターを油絵で描く。あゝでもない、こうでもないの繰り返しは子供の泥遊びに似ているが、いつか完成するのだろうなあ。イーゼルを前に腰を掛けて描いているが、この姿勢が腰に悪いのかな。一向に治らない。 2025.12.7 〈ヨーロッパのどこかの国からシベリア鉄道で帰国の途に着くが、今いる状態が全く不明でこのあとどうなるんだろうと思う〉不安な夢を見る。  やっとポスターが未完であるが完成する。  午後遅く北沢さん来訪。ベルリンの個展でヨーロッパの国を巡回する計画があるそうだ。  福岡国際マラソンをビデオで観る。かつての瀬古さんの時代が懐かしいが今は昔。(よこお・ただのり=美術家)