2026/07/31号 3面

プレゼント

新潮文庫
新潮社の文庫 プレゼント 伊坂幸太郎、江國香織、恩田陸、梨木香歩、町田そのこ、宮部みゆき、米澤穂信著 かげはら 史帆  もしも「文庫本」に季語があるとすれば、それはきっと夏だろう。児童書コーナーから脱出したいお年頃を迎えた夏、書店の一角で私を待っていたのは、版元ごとにずらりと並ぶ文庫の小宇宙だった。その筆頭たる「新潮文庫の100冊」は、今年二〇二六年でなんと誕生から半世紀を迎えたという。本書『プレゼント』は、それを記念して発売されたアンソロジーである。  伊坂幸太郎、江國香織、恩田陸、梨木香歩、町田そのこ、宮部みゆき、米澤穂信。いずれも説明不要な作家たちが、「夏」というテーマで短編の妙技を競う。物語のテイストも「夏」の扱いも七作それぞれ異なる。ストーリーは実際に読んでお楽しみいただくとして、ここでは、それぞれの作品において「夏」がどんな存在として描かれているかにフォーカスしたい。  伊坂幸太郎「ウッドペッカー荘事件」では、日本の夏の「長さ」──つまり「春から秋までずっと暑い」昨今の気象事情と、シェイクスピアの『夏の夜の夢』の舞台が実は四月下旬であるというトリビアが重ね合わせられ、事件解明の道筋となる。江國香織「二つの宇宙」は、主人公の男子大学生と祖母とガールフレンドをめぐるひと夏の物語で、終盤の「十九歳というのは夏の夕方みたいなもの」という鮮やかな言葉が印象に残る。宮部みゆき「真実のトランク」は、主人公の中年女性が働く二軒のバーで起きた事件をめぐる物語で、彼女は「夏の真夜中のよどんだ湿気」に神経を狂わされながら、事件の真相にふいに思い至る。町田そのこ「きっとあの日の光と同じ」は、恋愛に憧れる高校生男子が主人公。ビーチサンダル、アイス、コーラ、手持ち花火など、夏の若者アイテムがこれでもかと詰め込まれ、まぶしい青春をポップに活写する。米澤穗信「無明」は、東京都心部の過酷な夏とシングルマザーの貧困が掛け合わされた社会派作品で、「暑いのではない、苦しいのだ」という嘆きの言葉が重いリアリティに満ちている。梨木香歩「見越しのマツ」は、「夏にストーブをつけて洗濯物を乾かそう」とする若い隣人一家の奇行に主人公が違和感を覚えるところから物語が大きく前進する。恩田陸「伝説の季節」は、同氏の名作『六番目の小夜子』のスピンオフで、進学校の夏休みの閉塞感のさなかに現れた「サヨコ」と主人公の関根春が奇跡の邂逅を果たす。  夏は単なる物語の舞台であるだけでなく、記憶であり、カルチャーであり、事件の謎解きの伏線であり、社会の暗部であり、狂気の磁場である。「ウッドペッカー荘事件」では、シェイクスピアの『夏の夜の夢』からこんな言葉が引かれている。「お気に召さなかったら、夢だと思ってください」──七作いずれの作品のラストに添えられていてもおかしくない一言だろう。幸い今年は七月初頭まで涼しかったが、いまは夢だと思いたいくらいの夏の盛り。夏に夏らしい読書を楽しみたい人にお薦めしたい文庫本である。(かげはら・しほ=作家) 新刊・近刊ピックアップ 成瀬は信じた道をいく 宮島 未奈著  2024年本屋大賞に輝き、社会現象を巻き起こしたベストセラー『成瀬は天下を取りにいく』(以下、『成天』)の続編である『成瀬は信じた道をいく』(以下、『成信』)(宮島未奈著)が文庫になりました。  『成天』で中二の夏を西武大津店に捧げ、お笑いの頂点を目指し奮闘した成瀬あかりですが、『成信』でもその最高の主人公ぶりは健在です。さらに本作では個性豊かな面々が続々登場! お笑いコンビ「ゼゼカラ」ファンの小学生、成瀬のバイト先に現れたクレーマー、観光大使になるべくして生まれた女子大生。成瀬と関わった人々が、どのような影響を受けてどのように成長を遂げるのか。ぜひご注目ください!  さらにさらに文庫化に際して、初版限定琵琶湖の桜色スピン、ミルクボーイの駒場孝さんによる解説、エッセイ「びわ湖さんぽ」の収録、スマホ用壁紙(『成信』ver.)など、沢山の特典をご用意しました! この機会に成瀬あかり史の証人となってください! (既刊・693円・新潮社)

書籍

書籍名 プレゼント
ISBN13 9784101332574
ISBN10 4101332576