日本近世史
福留 真紀
今年特に注目した一冊は、原田和彦『「真田家文書」を読む 大名道具としての伝来文書』(雄山閣)である。長野市真田宝物館で勤務されていた著者が、同館と国文学研究資料館が所蔵する「信濃国松代藩真田家文書」を二〇年以上研究した成果の集大成である。
評者は史料調査で、さまざまな地域の博物館にうかがうが、その際に、学芸員の方の所蔵史料についての知識の深さに、いつも助けていただいている。史料と日々接しているからこそできる詳細な研究の成果は、各博物館の紀要や地域の学術雑誌などに、少しずつ発表されていることも多く、体系的に読むことは難しい場合もある。本書のようなコンセプトの著作が今後も作られ、全国の博物館から発信される所蔵史料に関する貴重で意義深い研究の数々が、たくさんの読者に恵まれることを期待したい。
なお、同じ松代藩をテーマとしたものとして、野尻泰弘・渡辺尚志編『幕府・藩役人の動向と藩地域 信濃国松代藩地域の研究Ⅷ』(岩田書院)、近隣の上田藩に関連して、岩下哲典編『幕末の老中 松平忠固 政治・生糸貿易・上田藩』(吉川弘文館)も出された。そのほか藩や地域社会をテーマとしたものに、荒武賢一朗・野本禎司編『仙台藩の組織と政策』、根岸茂夫編『近世人の身分格式と地域社会』(以上、岩田書院)、牧知宏『近世京都における都市秩序の系譜』(思文閣出版)があげられる。
外交については、池内敏編『鎖国日本の社会と外交 人びとの近世史』、荒野泰典『近世日本国際関係論』(以上、吉川弘文館)が出されている。
ほかにも、「倹約」を「感情」および「制度」としてとらえる視点を示し、『令聞余響』の分析及び翻刻も掲載されている論文集、吉岡孝・岩橋清美編『寛政期の感情・倹約・制度 勘定奉行中川忠英言行録『令聞余響』の世界』(岩田書院)や、朝幕関係の三〇〇年間の道筋を見通した、笠谷和比古『近世の朝廷と武家政権 織豊期から幕末維新期まで』(ミネルヴァ書房)も注目される。
人物をテーマとしたものとしては、鈴木暎一『徳川光圀の研究 思想・修史・教育』(吉川弘文館)、大川真『新井白石 五尺の小身、すべてこれ胆』、畑尚子『大奥の権力者 松島 田沼意次と共に活躍した将軍の懐刀』(以上、ミネルヴァ書房)が出された。
また、来年の大河ドラマ関連本が、例年に比べても、特に多く刊行されている印象で、豊臣家の人気ぶりをうかがわせる。主なものとしては、天野忠幸『大和大納言 豊臣秀長 補佐役か、もう一人の秀吉か』(平凡社)、新書では、福田千鶴『豊臣家の女たち』(岩波書店)、和田裕弘『豊臣秀長「天下人の賢弟」の実像』(中央公論新社)、黒田基樹『秀吉を天下人にした男 羽柴秀長 大大名との外交と領国統治』(講談社)、柴裕之『秀吉と秀長 「豊臣兄弟」の天下一統』(NHK出版)があげられよう。
加えて、豊臣家関連以外の新書では、久住祐一郎『参勤交代のお勘定 江戸時代のヒトとカネを動かしたシステム』(中央公論新社)、福留真紀『徳川将軍の側近たち』(文藝春秋)、和仁かや『江戸の刑事司法 「御仕置例類集」を読みとく』(筑摩書房)などが出された。(ふくとめ・まき=清泉女子大学教授・日本近世史)
