書評キャンパス
宗田理『ぼくらの七日間戦争』
板倉 怜奈
「大人になっちゃったなぁ」 そう思うことが増えた。思ってもいないのにあたかも本心かのように発言したり、逆に嫌われたくないという理由で本音を押し込めたり。十代の頃と比べて、私を取り巻く世界はあまりにも小さくなってしまった。見える景色はむしろ広がっているはずなのに。そう感じていた時、ニュースが飛び込んできた。小学生の時によく読んでいた小説の作者である宗田理が一年ほど前に亡くなられていたのだ。寂しさと懐かしさに、『ぼくらの七日間戦争』を再読した。
とある中学校の終業式、一年二組の男子全員が姿を消した。彼らは夜になっても家に帰ってこず、家族は息子たちの行方を案じた。しかし夜の八時、アントニオ猪木のテーマである「炎のファイター」をBGMに、ラジオ放送が流れてきた。
生きてる 生きてる 生きている/つい昨日まで 悪魔に支配され/栄養を奪われていたが/今日飲んだ〝解放〟というアンプルで/今はもう 完全に生き返った/そして今 バリケードの中で/生きている/生きてる 生きてる 生きている/今や青春の中に生きている
このラジオ放送の発起人は行方不明になっていた一年二組の男子全員であった。彼らはかつて日本で行われていた学生運動をなぞり、勉強や理不尽な校則を押しつける大人たちに反抗し、河川敷にある廃工場に立て籠っていたのだ。そこから少年たちは大人たちとの諍いを中心に本物の誘拐事件や市長選挙汚職などに関与しながら、溜まりに溜まった怒りや理不尽を大人たちにぶつけていく。少年たちの七日間に及ぶ戦いの記録が本書である。
理不尽を押し付ける大人と子どもたちが本書の中心だが、この環境を取り巻く人物も、ワクワクするキャラクターばかりである。例えば、廃工場に住むホームレスの老人だ。戦争経験者であることから「敵に勝つためには、戦略と戦術が必要だ」と話し、大人でありながら少年たちの味方としてサポートをする。夜間の侵入を防ぐために不寝番をつけることを提案したり、とある出来事のために外に出るにあたっての抜け道を教えてくれたりする。
本書は約40年前に書かれた作品である。しかし、そこに書かれた大人たちへの怒りや理不尽は、今現在も変わっていない。作中で子どもたちからの「いい大人とはどんな大人か」という質問に、老人は「えらい人の言うことをよく聞く人間だ」と話した。現在でもこの価値観は世間に浸透しているといえる。
同時に、子どもの想いを無視して自分の価値観を押し付ける大人もいる。そうした大人に従い、「えらい人」の言うことを聞き続ければ、気づいたら自分の本当の想いさえ分からない人間が出来上がってしまう。
本書に登場する少年たちは様々な想いを抱え、廃工場に立て籠もる。親の過剰な支配から逃れたい、体罰を行った先生に仕返ししたい、信用できない大人たちに復讐したい。それぞれの想いを抱え、少年たちは大人たちに鮮やかな反撃をする。
数年ぶりに読んでみて、最初に出た感想は「眩しい」だった。私は大人になってしまった。だが本書に触れ、眩しくて広くて狭い世界をもう一度思い出せた。廃工場に立て籠もったからといって、世界が大きく変わるわけではない。逆に自分自身の人生が大きく変わってしまうかもしれない。それでも自身を取り巻く環境で抱いた様々な感情をエネルギーに変えて、大人たちに反抗したいという、あまりの無鉄砲さ溢れる輝きに触れ、「大人」になってしまったとしても、あの時に抱えていたものをまだ完全には失ってなかったことを再発見できた。この作品は子どもたちだけでなく、大切な何かを忘れてしまった大人にもお薦めしたい。
宗田理が遺した、眩しくて広くて狭い世界の戦いの記録である。
★いたくら・れいな=大阪国際大学人間科学部4年。クロスワードパズルが好きです。たまに早解きもやってます。ナンプレにも挑戦したいです。
書籍
| 書籍名 | ぼくらの七日間戦争 |
| ISBN13 | 9784041013342 |
