2026/01/23号 5面

満月珈琲店の星詠み 本当の願いごと

〈書評キャンパス〉望月麻衣『満月珈琲店の星詠み 本当の願いごと』(池田果奈)
書評キャンパス 望月麻衣著『満月珈琲店の星詠み』 池田 果奈  「星占い」に抱く印象は人それぞれで、賛否両論あるテーマだと感じる。「根拠が無い」「胡散臭い」「でも気になる」――現にこれらは全て、筆者が本書を読む前に占いに対して抱いていた印象であった。  本書は、満月の夜にだけ現れる「満月珈琲店」を舞台に、猫のマスターが料理で客をもてなしつつ、星を詠んで人々を導くファンタジー小説である。筆者は当初、ストーリーよりも表紙や挿絵を担当している桜田千尋のイラストに惹かれて本書を手に取った。そのため最初は、ファンタジー色が強すぎると感じながら読み進めていた。  しかし本書に登場する人々の「悩み事」は、読者の共感を呼ぶ現実的なものだった。本書は連作短編の形式で書かれるが、特に印象的だったのは、派遣社員として勤務している女性の物語である。幼いころに父親を亡くし、母親の再婚により異父弟ができた彼女は、実家を新しい家族の家であって、自分の家ではないと感じていた。また職場も定まらず、どこにも居場所がないという寂しさを抱えていた。そんな彼女が偶然、満月珈琲店に立ち寄る。  店員から「あなたは、ご自分の『本当の願いごと』を知ってますか?」と問われた彼女は、「宝くじに当たること」「正社員になること」「必要とされること」と、少しずつ本心に近づきながら自問自答を重ねていく。作中には、本当の願いごとは「知っているようでいて、自分の中の奥底に隠してしまって、分からなくなっている」というセリフがあるが、まさに彼女はそのような状態だった。  マスターは彼女の月星座が魚座であることから、「本当の願いに気づきにくい」タイプだと説明する。そして「願いを叶える力」を持つ新月の目に見えない光を当てて作ったモンブランを饗する。店員との対話を通じて、彼女はついに本心に触れる。それは「自分を赦す」ことであった。  星占いについて考える機会は今まで少なかった。根拠が無いと思いながらも、朝の情報番組の星座ランキングを見て一喜一憂した経験はあるという、それが筆者にとっての「星占い」だった。しかし本書を読み、登場人物が星座を通して自分自身と向き合い、本当の気持ちに気づく過程を見て、星占いとは自己理解を深めるためのツールであるという認識を持つようになった。  自分を責め立てて、ないがしろにしている人は少なくないと思う。自分と向き合い続けるには気力と体力も必要である。このような状況の中で星占いは、自分と対話し本心に気づくきっかけを提供する役割を果たすのではないだろうか。  星占いはラベリングをして分類する行為だと捉えることもできる。しかし本書を通じて、あえて型にハマりに行くことで見える自分があると考えるようになった。星座という型を借りることで、言語化しにくい感情や願いを整理し、自分自身を客観視することが可能になるのではないだろうかと。  本書はシリーズの2作目で、現在7巻まで刊行されている。ファンタジー小説でありながら、現代社会を生きる私たちが抱える普遍的な悩みに寄り添い、新たな視点を提供してくれる一冊である。  ★いけだ・かな=京都橘大学総合心理学部総合心理学科1年。公認心理師を目指して勉強中です。誰もが気軽に心のケアを受けられる社会づくりに貢献したいです。

書籍

書籍名 満月珈琲店の星詠み 本当の願いごと
ISBN13 9784167923082
ISBN10 4167923084