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山本貴光
第32回 文部省の図書選定に反対
「読書人」のバックナンバーを通読していると、号をまたいで目に入るトピックもある。1959年5月あたりでは、文部省による図書選定が何度か取りあげられている。これはなにか。
まず目に留まったのは第275号(1959年5月18日)の1面に載った「文部省の図書選定に反対――書籍出版協会総会で決議」という見出しの記事だ。編集部によるものだと思われる。「全出版社の代表団体」である日本書籍出版協会(以下「書協」)が開いた総会を報じたものだが、その中で「「当協会は全会員協力一致、この選定制度には一切同調せず」という声明書を承認、さらに文部省の申請制度に対し、万場一致「会員は一切申請しない」という付帯決議を行った」と記されている。
どういう状況なのかについては次回以降整理するとして、その前に当時の紙面になにがどう記されているかをもう少し見てみよう。同じ号の6面に書協による声明(5月13日付)が転載されており、その冒頭を読むと事情が見えてくる。
「文部省は省令をもつて青少年に対する図書の選定制度を定め、四月二十日よりこれを実施することを発表し、当協会に対してもその協力方を要請してまいりました」
書協は選定制度を重く見て、文部省の案を検討し、また当局と懇談を重ねた。しかし、文部省から発表された選定制度には、書協の意見がほとんど取り入れられなかったという。その選定制度は、同協会の出版理念と相容れぬものであり、同調せずと決定したというのが先ほどの記事だった。
これだけではまだ、なにが問題なのかははっきりと見えてこない。この声明を載せた記事に、これも編集部によると思われる解説がついていて、これを見ると書協が反対した理由も分かる。問題は3点ある。そのまま引用してみよう。
❶行政機関が、自由出版物の善悪を選別することは良くない
❷紙一重の差で選定洩れとなったものは良くない本だということになるのは、出版社にとって迷惑至極である
❸出版の自由を阻害する危険性があるのみならず、思想の官僚統制につながるもの
戦前の検閲のように特定の本を発行禁止にしたり、文章の削除を命じたりとしたのと同じとまではいかないまでも、文部省が「これを良書として選定する」と価値判断を示すことで、選ばれなかったものが相対的に「良くない本」、お墨付きのない本ということになりかねないというわけである。
記事ではさらに中島健蔵(1903―1979/56/文芸評論家・仏文学者)と、「日本子どもを守る会」初代事務局長で『愛情の記録』(弘文堂、1962)などの著作のある清水慶子(1906―1991/53/評論家)の談話として、「書籍協会が、反対するのも無理ないね。文部省が、民間の選定機関があるのを、無視して、それに対立してやるということは、根本的に間違っている」(中島)、「選定図書反対の強い要望は、やはり戦前の苦い経験が生かされた結果だといえるでしょう」「今度の書籍協会の声明は、なによりの朗報だとうれしく思っています」(清水)といったコメントを紹介している。
この出来事がどのように推移したのか、紙面とともにもう少し追ってみることにしよう。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)
