2026/09/18号 5面

コンビニ人間

〈書評キャンパス〉村田沙耶香『コンビニ人間』(西山実日子)
書評キャンパス 村田沙耶香『コンビニ人間』 西山 実日子  三十六歳・未婚。大学卒業後も正社員として就職せず、同じコンビニで十八年間アルバイトを続けている。   こう聞くと、「既定路線を外れた人なのではないか」と感じるかもしれない。しかし、見方を変えれば、十八年間同じ場所で働き続け、その仕事にやりがいを見いだし、自分の生活を成り立たせている人でもある。本書を読んで私は、自分の中にもある「普通」という物差しと、それによって人を評価してしまう滑稽さに気づかされた。  主人公・古倉恵子は、幼いころから周囲とは異なる感覚を持っていた。小学生の頃、公園で死んでいた鳥を見て友人たちが「可哀想だから埋めてあげよう」と言う中、彼女だけが「持ち帰って焼き鳥にしよう」と考えた。大人になってからは、同世代の女性の服装や話し方を観察し、真似をすることで、「普通」がわからないながらも「普通の人」として生きようとする。  そんな恵子にとって、コンビニは単なる職場ではない。何をすればよいのか、どのように人と接すればよいのかがマニュアルによって示されているからこそ、彼女は初めて社会の一員として生きることができた。一般的には人間を型にはめるものと捉えられるマニュアルが、恵子にとっては「人間らしく」生きるための手がかりになっていたのである。  十八年間働き続けるうちに、恵子とコンビニの境界は次第に曖昧になっていく。毎日の食事もコンビニで済ませ、夢の中でもレジを打つほどだ。「コンビニで働くこと」は彼女にとって仕事や居場所を超え、自分を形作るものになっている。  しかし社会は、そんな恵子の生き方を認めようとはしない。結婚していない、正社員ではないというだけで、周囲は「普通」を押し付け、彼女に生き方を変えるよう求める。  ここで対照的に描かれるのが白羽である。彼は社会への不満を吐き続け、「普通なんてくだらない」と言いながら、恵子のコンビニ生活を「恥ずかしい」と否定する。白羽は「普通」を否定しているようでいて、実は誰よりも「普通」にとらわれている。社会が求める「普通」を理解しているからこそ、自分がそこから外れていることを強く意識してしまうのである。  恵子と白羽は、どちらも「普通」に馴染めず苦しんでいる。しかし、恵子は「普通がわからない」からこそ、自分に合う場所を見つけることができた。一方の白羽は「普通がわかる」からこそ、それに到達できない自分を責めてしまう。この違いから私は、「普通から外れていること」そのものよりも、「普通から外れている自分をどう捉えるか」が、人の生き方を左右するのだと感じた。   では、「普通」から外れた人だけが努力して社会に合わせるべきなのだろうか。私はそうではないと思う。現代社会では、「正社員として働く」「結婚する」「家庭を持つ」といった生き方を疑うことなく「普通」と呼んでいる。私たちは本当に自分の人生を自分で選択できているのだろうか。「普通」に人生を乗っ取られてはいないだろうか。大切なのは、誰もが他者から過剰に干渉されることなく、自分で人生を選択できることである。本書はそのことに気づかせてくれる。  現代社会や自分の心の中を、少し離れた場所から覗くような気持ちで読んでみてほしい。自分は他者に寛容で多様性に理解があると思っている人ほど、実は自分の心にも刷り込まれている「普通」に驚くはずである。

書籍

書籍名 コンビニ人間
ISBN13 9784163906188
ISBN10 4163906185