新 本所おけら長屋シリーズ 畠山 健二著 畠山 健二  二〇一三年にスタートした「本所おけら長屋シリーズ」(PHP文芸文庫)は第二十巻+外伝でひと区切りとなり、二〇二四年に祥伝社文庫より「新 本所おけら長屋」として新シリーズがスタートしました。おかげさまでシリーズ累計二二二万部を突破することができました。読者の皆様、全国の書店の皆様、おけら長屋を陰で支えてくれる〝チームおけら〟のメンバーには心より感謝を申し上げます。  このシリーズは文芸作品ではありません。文学賞にも無縁の小説です。くれるというなら、賞金目当てに遠慮なくいただきますが(笑)。  書籍離れ、小説離れといわれて久しいです。もちろんゲームやユーチューブなどのライバルは増えました。電車の中を見ていると、みんな携帯電話に夢中……。  でも本当は、ちょっとした時間で読めて、スッと物語の世界に入っていける、楽しい小説が読みたい。  そう考える人は多いのではないでしょうか。 「おーし。だったら俺が書いてやろうじゃねえか」と思い立って筆をとったのが、この「本所おけら長屋シリーズ」です。  物語は簡単明瞭。物語はすぐに始まって、ドタバタの連続。日本人の琴線に触れて、最後はちょっと涙……。みたいな。  自分の特性も考えました。漫才作家だったので、私の小説は会話が多いです。季節感の描写などはまったく無視。登場人物たちが語ってくれます。 「汗で褌までびっしょりだぜ」 「ああ。尻の割れ目に汗が滝のように流れてらあ」 ってなもんです。文学的な描写より、こっちの方が読みやすいでしょう。  寄席に出入りしていたので、古典落語は参考になりました。どんなに文明が進化しても、まったく進歩しないものがあります。それは人間の業です。本質です。楽して儲けたい。呑む・打つ・買うがやめられない。怠けたい、サボりたい、嫉妬する。嫉む、羨む。神代の昔からまったく変わっていません。落語と同じで、そんな人たちが暮らす長屋が舞台になれば面白い小説になるはずです。  読者の方々へのメッセージもありますよ。  世の中どんどん野暮になっていきます。なんとかしなければなりませんねえ。クレーマーにストーカー。ネットでの誹謗中傷、不倫を暴き、吊るし上げる。それなのに肝心なことからは目を背けてしまう。嫌な世の中になったもんです。もっと大らかに、粋に暮らしましょうよ。  そんな世の中だからこそ「新 本所おけら長屋」シリーズを読んでいただきたいです。お調子者で、間抜けで、お節介なおけら長屋の住人たちが、ささやかな安らぎを与えてくれると思うのです。(はたけやま・けんじ=作家)