- ジャンル:政治・法律・社会
- 著者/編者: 憲法ネット103(憲法研究者と市民のネットワーク)
- 評者: 澤野義一
混迷する憲法政治を超えて
憲法ネット103(憲法研究者と市民のネットワーク)編
澤野 義一
市民とともに憲法問題を考え発言し、行動することを目指す100名を超える憲法研究者有志の団体「憲法ネット103」が、2020~2024年の5年間のシンポジウム、連続講座、学習会等の活動を4部構成で23章からなる論稿に集約したのが本書である。冷戦後の2001年に発足した小泉政権以降、とりわけ安倍政権以降深刻さを増してきた立憲主義の形骸化と危機状況を「混迷する憲法政治」として捉え、その現状を日本国憲法の基本理念に照らして、どのように打開していくかを考察している。
第1部「平和主義のいま」は、諸論稿において「安保3文書」に関する重複ぎみの考察がなされているきらいもあるが、同文書の内容や実施状況の問題点を多面的に検討している。論稿は「日本国憲法の平和主義の理念と試練」(河上暁弘)、「安全保障政策の大転換―安保3文書がもたらす世界」(高作正博)、「今あえて、『軍事によらない平和』を追求することの意義」(三宅裕一郎)、「防衛力の抜本的強化と九州地方への影響」(青野篤)、「沖縄と平和主義―『平和的生存権』からの考察を中心に」(飯島滋明)である。
第2部「民主主義・立憲主義を問う」は、議会制民主主義や改憲論等の問題状況の検討を通じて立憲主義政治のあり様を考察している。論稿は「『民意』もしくは『憲法』か」(石村修)、「議会政治・憲法政治から見る安倍政治の総括―『レガシーを拒否する』主権者の権利」(永山茂樹)、「改憲論に対する憲法学的考察」(植野妙実子)、「劣化する民主主義と選挙制度改革の展望」(小松浩)、「『政治とカネ』の重大問題―裏金をなくす改革の必要性」(上脇博之)、「わが国における司法の果たすべき役割は何か」(青井未帆)、「憲法審査会における議論の現在」(大江京子)である。
第3部「人権は守られているか」は、今日のトピックで重要な人権問題を検討している。論稿は「災害と憲法」(根森健)、「コロナ禍における安全・安心と自由」(愛敬浩二)、「出入国管理に対する憲法的統制の実現に向けて―2023年入管法改定を中心に」(髙佐智美)、「個人の尊重・平和的生存権・女性の政治参画―ジェンダーと人権をめぐる憲法学的考察」(塚林美弥子)、「靖国神社合祀拒否訴訟の検討」(稲正樹)、「ビラ配布の自由と憲法裁判―21世紀初頭における市民的自由の状況」(成澤孝人)、「マイナンバー制度とプライバシー―違憲訴訟で問題となったこと」(水永誠二)、「教育費無償化の改憲論」(丹羽徹)である。
第4部「憲法を未来に生かすために」は、主に第1部で検討されている平和主義に関する諸問題にどのように対処していくかの課題を考察している。論稿は「日米安保条約の終了―主権国家日本の回復のために」(小林武)、「憲法9条解釈の前提となるべき戦争記憶の探究―沖縄戦ポストメモリーと集合的記憶」(麻生多聞)、「平和的生存権と国際協調主義に基づく国際連帯活動―ガザ攻撃と日本」(清末愛砂)である。
2024年の衆院選と2025年の参院選で、一強多弱の長期にわたる自公政権が少数与党になり多党化の下で安倍政治が終焉するかと思いきや、公明党が政権離脱した自維連立の下で、安倍政治を継承するタカ派の高市政権が10月に発足し、勢力を増した保守野党との協力を得て、トランプ政権の日米同盟強化の要求に早急に応えるために、安保3文書の前倒し改定等による軍事力強化を提言している。また、政権に批判的な少数野党を切り捨てる非民主的な議員定数削減や市民の自由を監視するスパイ防止法制定等も提言している。首相就任演説では、防衛費のGDP2%増額の2年前倒し実施や任期中の国会における改憲発議の加速化等も提言している。このような、これまで以上に憲法政治の混迷が進むことが危惧される直前に刊行された本書は一読に値する。(さわの・よしかず=大阪経済法科大学名誉教授・憲法学)
★憲法ネット103(憲法研究者と市民のネットワーク)=憲法を政治や生活に生かすことに取り組むため、一〇〇名を超える憲法研究者が集まって二〇一七年に結成。第二次安倍政権下での安保法制・共謀罪法の成立経緯や、臨時国会での審議抜き・理由なし冒頭解散などの憲法無視の政治に対し、市民とともに行動することを志す。
書籍
| 書籍名 | 混迷する憲法政治を超えて |
| ISBN13 | 9784842010915 |
| ISBN10 | 4842010916 |
