マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』全5巻 関 大聡  幸福な習慣と言うほかない。高校時代、学年末の休暇に長編小説を読んでいたのだ。とはいえチャンスは三度きり。それが『カラマーゾフの兄弟』、『戦争と平和』、そして『風と共に去りぬ』だった。  理由は? はっきりしない。愛媛の古本屋で見つけたのかもしれないが、四月の上京を前に人生の変化と重なる本を探していたのだろう。  スカーレット・オハラは小説で出会える最も魅力的なヒロインの一人だ。アメリカ南部の農園一家に生まれ、戦争に翻弄されながら必死に農園を守る。南北戦争を知ったのはこの小説からだ。一白人の視点からとはいえ。  思い入れは少し〝痛い〟仕方でも現れた。大学のドイツ語クラスにいた級友・小原(オハラ)を「スカーレット」と呼んでみたり(すみません)。  長編を読み終えたときの満足感は、ひとつの人生を生き抜いた感動に等しい。「明日は明日の風が吹く」は、私に東向きの風を与えた。いま新潮文庫と岩波文庫から新訳が出ている。また新しい風が吹いているのだろう。(鴻巣友季子訳)(せき・ひろあき=日本学術振興会特別研究員PD・仏文学・思想)