2026/07/10号 4面

現代日本政治史

現代日本政治史 中北 浩爾著 吉田 龍太郎  歴史なんて政治学ができなくても書けると一般には思われているのだろう、と気鋭の政治史学者が評者に自虐気味に語ってくれたことがある。確かに、文学部史学科から社会科学系の学部に輩出される人材は多いが、その逆はほどんどいない。これほどの人でさえそのようなことを気に病まねばならなかったのかと戦慄したものだが、本書の著者もまた、今回政治学的な分析を世に問うことへの強い自負を見せている。  「私の学者人生も終わりがみえてきた」とは謙遜が過ぎるが、衆目の一致する重鎮となった著者が苦闘の末ついに上梓した通史である。政党政治を基軸としつつ、それと市民社会や国際関係との連関にも焦点を当て、複合的に分析している。銘打たれてはいないが、経済や政治資金についても目配りがなされている。外交については独立した章も多く、政党政治を規定した国際環境の研究からスタートした著者の初期の研究の集大成ともなっている。  占領期から独立回復後の数年までの時期については、外交が先に論じられる。国際関係が日本政治のあり様をより直接的に規定した期間であった。それ以降は、外交が後出しで論じられるようになっていく。  関係国からも後押しを受けつつ成立した自民党と社会党は明暗が分かれた。自民党は、高度経済成長と都市化の恩恵を受けた市民層の支持獲得に苦戦しながらも政策の幅を広げてしのいだ。野党側は、社会党・共産党の共闘に市民運動も取り込んだ革新自治体の一時的な成功に安住し、その先の態勢構築よりも保守復調が先に訪れてしまったのであった。  保守復調の背景は、著者の中堅時代の主たる研究課題であり、その成果が本書にもよく反映されている。すなわち自民党は、都市型市民を取り込みつつ、その精神的成熟を促すとともに既存の家族・共同体モデルと接合した「日本型多元主義」で命脈を保った。大平・中曽根政権でブレーンを務めた学者たちの役割の過大評価には慎重であるべきだろうが、価値観の伝播が歴史を作っていく様を追うことは理解を大いに助ける。  次に訪れる「日本型多元主義」からの質的転換、すなわち新自由主義の主流化についても、小沢一郎の転身、非自民連立政権、小沢の新進党、これに対抗する自民党側の橋本行革を経て、小泉政権で頂点を迎えるに至る流れが過不足なく読める。その後、小泉政権への対抗軸を模索する中で小沢が社会民主主義的色彩を強め、民主党代表として同党の政策転換に果たした役割についても押さえられている。   評価が定まり切っていない今世紀の出来事については、さすがに省略された重要事項が目立つようにはなる。小沢一つをとっても、鳩山由紀夫政権における小沢幹事長体制崩壊のきっかけとなった陸山会事件については全く言及がないなどの課題も残る。とはいえ、多くの類書が小沢マニフェストの金額膨張を難ずるにとどまるのに対し、野党で数値目標を定めること自体に無理があったことや、出来なかった時に契約違反と言われてしまうマニフェスト選挙の構造そのものに批判的に言及している点は貴重である。  二〇一二年の自公政権復活後の記述については、自民党の更なる変容や野党の苦闘についての著者の近年の研究成果や社会的発信が惜しみなく反映されている。各党の今後についての具体論については著者の各方面における発信も参照しつつ読むと良いだろう。  なお、独立の節や章を活用した論述は政治学的には収まりが良いが、著者の筆力をもってすれば、各時代や内閣を軸に時系列的な記述をとりつつ縦横無尽な書き方もできたかもしれない。市民社会や経済については、濃淡はありながらも各章に埋め込まれた記述もあるし、外交についても、岸政権下の安保改定についてはそうなっている。より時系列的な理解を行いたい読者は、複数の章や節を読み合わせながら前後関係や因果関係を再考されたい。(よしだ・りゅうたろう=東京国際大学准教授・日本政治史)  ★なかきた・こうじ=中央大学教授・日本政治史・現代日本政治論。著書に『経済復興と戦後政治』『一九五五年体制の成立』『日本労働政治の国際関係史1945―1964』『自民党政治の変容』『日本共産党』など。一九六八年生。

書籍

書籍名 現代日本政治史
ISBN13 9784641149632
ISBN10 4641149631