2026/07/10号 4面

危機に立つ学校教育

危機に立つ学校教育 北野 秋男著 高橋 寛人  本書はA5版、全166ページのブックレットである。現代日本の教育課題について学力や貧困の問題を中心に説明し、学力テストの弊害を指摘する。そして、真の学力を育てるために、小中学生も「卒業論文」を作成することを提案している。  著者の北野秋男教授は、これまで長年にわたって学力テストについて調査・研究を続け、多くの図書を刊行してきた。本書は、北野教授が長年の研究で培った識見をベースにしながらも、難しい専門用語は使わず、学生、教師、子育て中の親をはじめ一般の読者にも読みやすく書かれている。(ここで「学力テスト」とは、教師が作成する学校・学級単位のテストではない。国や都道府県などの公的機関が実施する大規模な学力調査をさす。)  北野教授は、全国の教育研究所や図書館をまわって関係資料を調査して、敗戦直後から現在までの学力テストの実態を明らかにした(北野秋男編『戦後学力テスト研究資料集』〈全3巻〉クロスカルチャー出版、北野秋男著『地方学力テストの歴史』風間書房、同『学力テストのイノベーションとダイバーシティ』風間書房、北野秋男他共著『現代学力テスト批判』東信堂)。また、米国をはじめ世界各国の学力テストについても、研究者を集めて共同研究をすすめてきた(北野秋男著『日米のテスト戦略』風間書房、北野秋男他編著『世界のテスト・ガバナンス』東信堂)。  以下、『危機に立つ学校教育』の各章の内容を簡単に紹介しよう。  第1章で、現代の子どもや若者をとりまく危険な状況として、不登校、いじめ、スマホ依存、貧困や政治への無関心などを取り上げている。学校教育との関わりでは学力低下と子どもの貧困がとくに重要な課題なので、次章以下でくわしく述べられる。  第2章は「危機に立つ学力」である。2003年のPISAショックにより、日本の子どもの学力低下が問題となり、文部科学省は2007年から毎年「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)を実施する。しかし、全国学力テストは新たな問題を生む。市町村別・学校別の点数が公表されるために、自治体・学校がランク付けされる。自治体は点数を上げるために自治体独自の学力テスト(地方学力テスト)を行い、学校はテストの事前対策に追われるようになった。  第3章は「二極化する学力」である。子どもの学力は、家庭の経済的条件に大きく左右される。子どもの貧困対策の推進に関する法律が2013年に制定されてから、様々な対策が取られるようになった。にもかかわらず学力の二極化が進んでいることを指摘している。そもそも日本の税制や福祉制度が国民の所得を再分配して格差を是正する機能が弱く、また、子育てが行政の責任から本人や親の自己責任にすり替えられていることが問題である。そのような状況の中で、学校や教師ができる対策をあげている。  第4章は学力テストの弊害を説明している。学力テストは本来、学習の成果を測定して、指導方法の改善などを行うことが目的のはずである。だが、全国学力テストの実施によって、テストの点数をあげることが学校での勉強の目的になってしまった。さらに学力テストを教員に対する管理・統制の装置として使う知事・政治家もあらわれた。学力テストの弊害があまりにも大きいため、北野教授は学力テストの縮小・廃止を訴える。  第5章で著者は、学力テストにかえて、小学生・中学生も「卒業論文」を作成することを提案する。子どもが自ら課題を見つけ、調べ、考えて、自分の意見や主張をまとめる。子どもたちは世の中の様々の出来事や人々に関心を持ち、いろいろな意見や考え方を知る。この過程で、思考力、探究力、構想力、表現力などの様々な能力が総合的に育成される。学力テストによる競争が子どもの孤立を生むのに対し、卒業論文は子どもと人々のつながりをつくり、子どもの世界を広げるのである。  本書を読めば、子どもたちが直面している「学び」の危機の実態を知り、危機を乗りこえるための新たな「学び」のあり方を考えることができる。多くの方々にご一読をおすすめしたい。(たかはし・ひろと=石巻専修大学教授・教育学)  ★きたの・あきお=元日本大学教授・教育学。著書に『地方学力テストの歴史』など。一九五五年生。

書籍

書籍名 危機に立つ学校教育
ISBN13 9784910672779
ISBN10 491067277X