2026/05/29号 8面

日常の向こう側 ぼくの内側 739(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 739 横尾忠則 2026.5.18 19歳の頃、神戸で「きりん会」というグループを5人で結成した発起人の画家納健くんが死去したらしい。他の3人の消息は?  昨日から体調アウト。玉川病院に飛んで行く。採血の結果は白血球が少し上がっているので軽い風邪では。脱水症状を疑って点滴をするが、期待していた?入院の必要なしと。便秘もまあまあ。  食欲のない妻が好物のフカヒレそばをペロッ。 2026.5.19 妻が養老院に入ると言いだしたので「成城歐林邸」の見学に行くが、自然環境は凄くいいけれど、2間部屋は狭く、なんだかコセコセしていて、これじゃわが家を施設化して住んだ方がいいと思った。妻も「止めた」と言う。  それにしても少し動くだけで息切れがして、足がふらつく。病気とは名付けられない人生の終末に起こる怪病ではないのかな。  〈深夜に布団の上に2匹の猫がいる。野良らしい猫とおでんだ。電気をつけようとしてベッドから落ちて思いっ切り腰と首を打った〉ところで目が覚めるが、2匹の猫の実在感は夢とは思えなかった。 2026.5.20 昨夜ベッドから転落で腰と首がかなり痛む。  22日に神戸の美術館のオープニングに行く予定がどうも体調が悪く断念する。日に日に歳を取っていくこの実感は一体どこからくるのかな。  日本橋高島屋の平岡さん、辻さん来訪。版画展の可能性についての相談。条件面で折り合わなさそう。 2026.5.21 朝6時に気分が悪く目が覚める。脱水症状? スポーツドリンクを飲んで少し落ちつくが、体温が37度は高い。早速向いの水野クリニックに。徳永も駆けつけてくれる。水野先生が玉川病院のデータをチェックすると、どこも悪くないと。平熱が高いのは高齢者では健康で、加齢とともに熱をもつ力は衰えてくるのでむしろ平熱が低い方が悪い。老齢の体温の知識がなかったために、不安になる。アドレナリンが出て気持が悪くなって自律神経に影響したのではと、水野先生の話に納得した途端、急に元気になる。明日神戸へ行く予定だが、今回は休息した方がいいとの結論で中止する。  南雄介さん来訪。美術とデザインの一体化について話し合う。  夕方、急に体の周辺の空気の流れがよくなってこれだったら神戸へ行けたのにと気分が変る。 2026.5.22 今日は気温がうんと低く冬に逆戻りした感じだ。もし今日神戸に行っていたら、つらい旅行になったかも知れない。新幹線は今日の気温に合わせて温度調整をしないで5月の気温に合わせるにきまっている。だったら車内は厳寒になりそう。  アトリエ内を歩いたり、ラジオ体操をしたり、ソファで手足を暴れさせるマネをしたりする。  夕方、水野クリニックへ点滴に。針が2度も上手く入らないので結局点滴は中止。  身心の機能低下を「老年症候群」と呼ぶらしく、原因がひとつではなく、色んな個所が連動する。 2026.5.23 その老年症候群らしく、何をしても何をしなくても疲労する。その究極の理由は歩かないことかも知れない。久し振りに野川公園まで遊歩道を下りてビジターセンターのテラスでエッセイを書く。歩けば歩けるのだがどうも怠惰心がそれをさせない。 2026.5.24 〈西脇の華やかな商店街で誰かと流れてくる昭和歌謡に耳を傾けながら、2人で心の底から昭和を満喫している〉夢。昭和の精神は西脇で終ったのだ。  〈元ラフォーレの武村さんと銀座で野外パニック映画を観ている内に、映画のシーンがそのまま現実に起り始めて、人混みの中を逃げるが、武村さんとはぐれてしまって、現実のパニックになってしまった〉という夢を見る。  行きたくないが習慣としてアトリエに行く。しばらく絵を描いていない。  昔骨折した足の親指が痛み続けている。死ねば治るのだろうけれど。(よこお・ただのり=美術家)