2025/09/26号 8面

日常の向こう側 ぼくの内側 708(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側No.708 横尾忠則 2025.9.15 〈雨あがりの早朝、表の庭で野良の黒兵衛(妻は大黒と呼ぶ)がエサをあさっているのをおでんとふたりで眺めている〉という夢だが、夢ならもう少し、創意工夫があってもいいんじゃないかな。  夜、テレビで世界陸上男子棒高跳びで世界新記録6・30メートル達成を見るが、どのくらい凄いことなのか、自分にはできないことなので、きっと凄いことなんだと思う。 2025.9.16 新潮新書の葛岡さんが来年2月に出る本(タイトル未定)のゲラを持参。「週刊新潮」に連載しているエッセイの単行本化だが、掲載当時にすでに校正が終っているので、もう一度、校正するのは面倒臭い作業だと思いながら再読すると、やっぱりゲラに手を入れる個所がいくつもある。未完は永遠なりだ。 2025.9.17 「ART ASIA PACIFIC」誌でスイスのバーガーコレクションが持つぼくの25点の絵画について、批評家のエドワード・ゴメズのインタビューを受ける。彼は他にぼくの自伝の執筆も計画していて、著作など読みあさっているようだ。彼は東京に住んでいるのだが、都市の自宅から成城まで自転車でやってくる。メキシコ人とアメリカ人のハーフで5ヶ国語を話す。  藤森さんの出張鍼治療とは別に成城の信愛ホームの鍼治療を訪ねる。藤森さんは15分位だが、ここの院長は40分以上。もっとやりたいそーだが疲れるので、今日はこの位で。だけど効果てきめん。早速、来週も予約を入れる。  大谷心細い50号。大の里すでに一敗。大谷にあやかって大の谷に改名すればどうなんだ。 2025.9.18 朝日新聞の木村さん来訪。書評担当から1年間労働組合の担当に移ったら、すっかり顔が大人の顔に変っていた。身長も伸びた。1年でこんなに簡単に変るもんかな。目下、新聞紙上で宇野亞喜良の「今」欄を担当している。 2025.9.19 長野で母堂の介護をしている北沢さんが帰京して、久し振りにアトリエに来訪。彼は近所に住んでいて、いつも長野のお土産など持参してくれる。ベルリンでのポスターの個展を先方の画廊といろいろコーディネイトしてくれている。展覧会は11月15日から。招待されているが海外旅行は無理ムリ。 2025.9.20 〈西脇の駅前をぶらついていてフト、この辺りに寺田寅彦氏の家があることに気づいて訪ねてみることにして、近所の人達に家の場所など聞いて、手土産をと、住吉屋で函入りの和菓子を買うが、毒味に一個食べる。一個減ったためにつまっていた函の中味が少し空洞になったので、和菓子を並びかえて、それらしく見せる。ところで一体何のために寺田氏を訪ねるのか、目的の理由を考えなければならない。どうやら家の中では老夫婦が向い合って座っている光景がなんとなく頭に浮ぶ。家の前まで行ったが、まだ訪ねる目的が浮かばない〉と思う夢を見る。  おでんが深夜に枕元で小便をちびったらしく、臭う。ヤダなと思いながら頭から布団をかぶって寝る。 2025.9.21 ハンバーガーを食べてもアクビをしても顎の痛みがない。この前の鍼の効果がでたらしい。  昨日、大谷51本。あと2差を縮めるか、開くか。  今日Yさん来訪の予定がコロナに罹ってしまった。3度目らしい。Aさん夫人は4度目。コロナ体質の人かな。  やゝ涼しい。クーラー不要。  描きたくないけれど、次の作品にでも取りかかるかな。いやいや描く絵は時には時間を超える。ラマ僧の描く砂絵みたいに完成と同時に消滅させる――ここまでの根性はないけど、気分は同じ。  アトリエでぼんやりしているとどこからともなく強いいい香りがしてきた。  大谷リーグ首位タイの53号。何と云う芸当!(よこお・ただのり=美術家)