2026/06/19号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 742(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 742 横尾忠則 2026.6.8 十数年振りで元ラフォーレミュージアムの武村俊さん来訪。何度か個展を開いてもらったが、当時のスタッフらの消息を聞くと、すでに何人か亡くなっていたりする。死ぬのも寂しいが生きるのも寂しい。  「Hades」シリーズの2点目。ドラクロアにちなんだロマン主義的な古典様式にデュシャンが加わる。三島さん好みの絵になるが、それ故に物語臭が強くなった。  食欲の落ちている妻になんとか食べさせたいと思ってフカヒレそばをテイクアウト。玉川病院の元院長の中嶋先生も食欲のないのを心配して、電話あり。 2026.6.9 昼、神戸屋へ。先日の朝日新聞で紹介したステーキのリクエストの客が増えているそうだ。  「Hades」の3点目。がらりと様式を変える。古典的色彩を原色に変更。戦争での兵器ドローンのビジョンを描き込む。この光景が現代のロマン主義とは呼べないが、怪しい絵になる。  昼間の絵の制作がたたったか、夕食後、その反動に襲われる。 2026.6.10 長野に99歳の母親の介護に帰っていた北沢さん来訪。  玉川病院の中嶋先生が妻の病状を案じて見舞に。その帰りにアトリエに。老齢になると食欲がなくなるのは妻に限らず、こちらも日々、食欲が落ちていく。味覚もにぶくなる一方。 2026.6.11 パリのカルティエの元館長のエルベさんより、上海の美術館 Power Station of Artがもう一度個展の仕切り直しをしたいと、早速、当美術館での個展再開実現のための準備に入る。エルベさんは勿論、ニューヨークのフリードマン・ベンダ画廊も、積極的に協力をしてくれることになる。如何なる理由があろうとも、アジア随一の美術館での個展への協力を横尾美術館が断ったことは信じられない、考えられないと。国内の美術館も作品の貸し出しに協力してくれそうだ。上海の Power Station of Artが発信している横尾美術館の評判が耳に入って来ている。  伊東豊雄さんプロデュースのワインのラベルデザインのお披露目の席上で流す、ビデオによるコメントの撮影あり。 2026.6.12 一晩中、夢か現か、その区別がつかないはざまで幻のポスターを制作。早速アトリエで取りかかろうと思うが、思うようにはいかない。深夜の妄想から自由になって、別の発想で取りかかる。  オーストリア在住のピアニスト滑川真希さん来訪。フィリップ・グラスの「MISHIMA」がアメリカから発売されることになって、CDのカバーに三島の絵を使用したいと。  尾上右近さんの「研の會」公演の最後のポスターを油彩でと思ったが、思うだけで実際は無理かも。  このところ疲労が激しいので水野クリニックへ。慢性的な疲労は老齢のせいらしい。生活で気をつけることは、無理をしないで水分をたっぷり採ることが先決。 2026.6.13 ホックニーが死去。88歳。一個下だ。彼の無限の変化もこれで終るのか。自分では日本のホックニーでいいと思っているが、どこの国でも日本のウォーホルと呼ばれてしまう。 2026.6.14 〈永井一正さんのお別れ会に行くが、遅刻する。教室に沢山の出席者がいるがぼくの座るスペースがないので部屋を出て、関係者の控え室に行くが、知り合いというか係りの人がいないので帰るより仕方ないと思う〉夢。  ドジャースの山本、パーフェクト目前で完全試合を逃すが、彼はテレ隠しかやけに明るい。彼には一生の思い出になるだろう。  体調がもうひとつ。どこが悪いわけでもなく老年には平等の役割かも。  イギリスのアート誌「eye」がドイツでの個展の大特集をしてくれている。(よこお・ただのり=美術家)