徳田秋聲探究

菊池寛賞を授賞した八木書店版『徳田秋聲全集』の編集委員を務めた著者による新しい知見に満ちた秋聲論集。

本書の魅力のひとつは、作品の中にさまざまな疑問を見つけて作品構造や執筆モチーフを解明したことにある。たとえば
・墓石に記された未詳の義母と最後の愛人:小林政子とが繫がる細い因縁とは?
・名作『縮図』の冒頭が何故銀座資生堂パーラーから始まるのか?
・著者の入手した稀覯的『縮図』新聞切抜き本の作製者は誰か?
・閑却されて来た秋聲の通俗小説論を本格的に論述。秋聲の目指した通俗小説の改革とは?
・秋聲と栃木県今市というトポスの所縁は? 作品への反映は?

また、秋聲と日露戦争作品、閑却されて来た掌編「おち栗」から戦争小説の意義を初めて詳述。秋聲代作説に関しては、代作と自ら認めた一中編作品の原稿を徹底調査、すべて秋聲自筆で推敲の跡も残る原稿を検討、代作問題の複雑さと近代文学における作家のオリジナリティの関係を論ずる。その他、円本刊行以前に予約出版・大量広告を行なった国民文庫刊行会・玄黄社社長鶴田久作と秋聲の関係を明らかにするなど、今まで誰も触れなかった数々の文献を元に新たな秋聲像を探究。

近代文学研究者はもとより、新しい秋聲推しの読者にお薦めの一冊。
著者 小林修
出版元 文化資源社
頁数 392頁
発行日 2025-02
ISBN13 9784910714097
ISBN10 491071409X

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