普通の組織

「普通の男たち」と「普通のドイツ人」、そして「悪の凡庸さ」を超えて

ナチ体制下で普通の人びとがユダヤ人の大量虐殺に進んで参加したのはなぜか。ブラウニングが先鞭をつけたこの問いをさらに掘り下げ、殺戮部隊を駆り立てた様々な要因——イデオロギー、強制力、仲間意識、物欲、残虐性——の働きを組織社会学の視点から解明した、ホロコースト研究の金字塔。

普通のドイツ人男性は組織の成員資格という枠組みの中ではじめて、多くの人びとが抱いていた潜在的な反ユダヤ主義を強制移送、ゲットー解体、大量射殺への具体的な関与に転化する姿勢を身につけたのだった。しかし、だからといって――ここにハンナ・アーレントの伝統に則った説明アプローチとの決定的な違いがあるのだが――組織のメンバーが機械の歯車のように機能したということにはならない。〔......〕つまりホロコーストの遂行を可能にしたのはまさに、組織メンバーの逸脱、再解釈、イニシアティブの力であった。
(「序章より)


原書:Stefan Kühl, Ganz normale Organisationen: Zur Soziologie des Holocaust, Suhrkamp Verlag Berlin 2014.

◎目次
序章

第一章 「普通の男たち」と「普通のドイツ人」を超えて
1 単純な回答の限界
2 動機追求から動機呈示へ
3 組織メンバーの動機づけ

第二章目的への共感
1 反ユダヤ主義的なコンセンサスの虚構の形成
2 反ユダヤ主義的なコンセンサスの虚構の確立のための世界観教育の役割
3 「無関心な受容」から「積極的な参加」へ

第三章強制
1 強制徴集と脱退防止
2 強制組織における成員資格問題の回避
3 自由裁量の限界
4 強制の中の自由

第四章同志関係
1 同志関係の圧力とインフォーマルな規範の形成
2 同志関係形成の諸次元
3 同志規範はどのように広まったのか
4 自由の付与による同志関係の動員

第五章金銭
1 大隊員の正規給与の機能
2 ユダヤ人資産の収用による合法的な横領
3 正式な報酬・報償以外の利得
4 横領の機能性

第六章行為の魅力
1 殺害へのためらいとその克服のための組織的戦略
2 動機の創出——犠牲者の非人間化
3 残虐性の組織文化

第七章動機の一般化
1 個人的関与の様々...
著者 田野大輔、シュテファン・キュール
出版元 人文書院
頁数 430頁
発行日 2025-04
ISBN13 9784409241691
ISBN10 4409241699

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