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【What’s New!】週刊読書人2024年2月2日号

【What’s New!】週刊読書人2024年2月2日号

【特集】
追悼・篠山紀信(中森明夫氏に聞く)
<時代を駆け抜けた写真家>

本号(2月2日号)では、「時代を駆け抜けた写真家――大衆の〈偉大な目〉として、昭和・平成・令和を記録する」と題して、1月4日に亡くなった写真家・篠山紀信さんの追悼をお送りします。1990年から2001年まで、『週刊SPA!』の巻頭グラビア〈ニュースは女たち〉で仕事を共にした、作家・評論家の中森明夫氏にロング・インタビューを行っています。

中森さんは、昨年11月に『推す力』(集英社新書)を刊行しました。アイドル評論家として歩んだ道のりを、時代背景とともに綴った一冊です。その序章が、篠山紀信さんの話ではじまっており、また4章「〈チャイドル〉ブーム始末記」と、5章「さらば、沖縄の光」が、篠山さんとの仕事を振り返りつつ、篠山紀信という写真家を真正面から捉えた評論として読むことができます。期せずして、篠山さんの追悼を、生前に記してしまった、とても稀有な一冊です。

そんな中森さんが、篠山さんという写真家をどのように思っていたのか。若くして父親を亡くした中森さんにとって、篠山さんは、いわば〈父親〉みたいな存在だったといいます。クリエイティブ(仕事)のことのみならず、美味しいお店の話から、メニューの注文の仕方、結婚披露宴でのあいさつの仕方まで、ありとあらゆることを、篠山さんから教わったと、本インタビューでは吐露してくれています。

また、〈日本一上手い写真家〉として、そして仕事量から言えば、バルザックや手塚治虫に並ぶ存在として、篠山さんを位置づけています。篠山さんの日本写真批評家協会新人賞受賞は、森山大道さんよりも早い。日本写真協会賞受賞も、植田正治や東松照明よりも早い。昭和の巨匠・土門拳に遅れること、たった10年ほどの受賞だった。その意味で言えば、篠山さんは、日本の写真史の王道中の王道を歩んできたわけです。

個人的にも、篠山紀信さん(撮影の写真)には、随分とお世話になった……と言えばいいでしょうか。中森さんもインタビューの中で発言されているように、ある世代の少年たちにとっては、『GОRО』の〈激写〉シリーズは、毎号が、クラスの中で話題にのぼるものでした。『写楽』という雑誌もありました。今でも記憶に強く残るのは、川上麻衣子さんの写真です。数々の写真家と仕事を共にし、カメラ雑誌の編集を長年務めた、朝日新聞のTさんも、『写楽』掲載の川上さんの写真には、「目を奪われた」と語っていました。

1980年にデビュー以来、ずっとファンである、松田聖子さんの写真集『five seasons』が、今手元にあります。最後から4番目のカット、横たわってこちらを見つめる一枚は、〈奇跡のワンカット〉と言えるでしょう。

山口百恵さんが、雨の中でたたずむカットも同様です。おそらく、篠山紀信さんは、そのような〈奇跡のワンカット〉を数知れず激写してきてくれたのだと思います。

篠山紀信さんの中で、もうひとつ思い出深い写真があります。まだデビュー前の、無名の若者4人を、川崎まで行って撮影したものです。バイクに乗り、革ジャンにリーゼント。後に〈キャロル〉として、一躍スターとなる4人組です。若かりし頃の矢沢永吉さんが、その中にいます。篠山さんは、常に、若い世代を見続けた写真家だったと思います。

篠山さん、ありがとうございます。あなたの写真が、暗い少年時代に、どれほどの彩りをあたえてくれたか。この場を借りて、謹んで哀悼の思いを捧げたいと思います。

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つづいて本号8面では、「東電刑事裁判高裁判決は次の原発事故を準備する危険な判決だ」と題して、弁護士の海渡雄一さんに話をうかがっています。聞き手は『脱原発の哲学』(共著、人文書院)の著書もある、筑波大学准教授の佐藤嘉幸さんが務めております。

丁度、インタビューの原稿をまとめていた、元旦の午後に、能登半島地震が起こりました。何の因果かと思いましたが、すぐに頭に浮かんだのが、石川県にある志賀原発です。幸いにも、大事には至らなかったようですが(もしかして真実は隠されているのかもしれませんが、少なくとも福島原発の再現にはならなかった)、改めて、この地震大国・日本に、原発を置くことの危険さを感じた次第です。

インタビューの中で、海渡さんは、東電刑事裁判高裁判決の大いなる過ちを指摘します。そして、きちんとした津波対策がなされていれば(本来ならば対策は行われていたといいます)、事故は防ぐことができたともいいます。それがなぜ、できなかったのか。詳細にか語ってくれています。今後の我が国の原子力政策を考える上でも、是非ともお読みいただければと思います。

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本号から、東京大学名誉教授・小林康夫さんの、新連載『百人一瞬』もはじまりました。小林さんが、これまでの研究者人生の中で出会った方たちとの思い出をつづります。第一回は、ファッション・デザイナーの三宅一生さんです。三宅さんの学生さんへの気遣い、心配りが、心にしみます。それにしても、あの小林さんが、三宅一生さんの〈追っかけ〉だったとは! 果たして、今後どのような方たちとの出会いが語られることになるのか。今から楽しみでなりません。

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書評面からは、各面から1本ずつご紹介いたします。

まずは、フィリップ・ラクー=ラバルト/ジャン=リュック・ナンシー著『文学的絶対』(法政大学出版局)。1978年に原著が刊行されたふたりの共著。翻訳が待たれていた一冊です。評者は、東京大学大学院人文社会系研究科・次世代人文学開発センター特任助教・八幡さくらさん。ロマン主義とシェリングの取り扱いに着目して、論じてくれています。

次に4面からは、陣野俊史『ジダン研究』(カンゼン)。ジダンをこよなく愛する陣野さんが、全身全霊をもって著した大作です。陣野さん! ついにやりましたね。おめでとうございます。本当に素敵な本をありがとう。2006年ドイツワールドカップ、決勝のイタリア戦で、痛恨の退場処分を受けた、その原因となる「ヘッドバンド」を、私たちはどう解釈したらいいのか、ジダンと父親との関係などなど、ジダンファンのみならず、是非とも手にしたい一冊です。評者は、上智大学准教授の堤康徳さんです。

つづいて、「文学・芸術面」から。岡﨑乾二郎さんの『頭のうえを何かが』(ナナクロ社)をご紹介します。2021年に脳梗塞で倒れた岡﨑さんが、病床で描いた絵を中心に構成された一冊です。評者の中川素子さん(美術評論家)は、次のように述べます。「自分の身体が自由に動かないことに落胆しながらも、岡﨑がそれに負けない強い決意とリハビリに対しての計画性をもっていたことに感心する。作業療法士の方々への感謝の気持ちも忘れず、自分の身体が抱える難題が、自分だけではなく共同で取り組んでいるプロジェクトのように感じられ、作業療法士の先生に、「すごい」と褒められると、嬉しくも楽しくもなったようだ」。

最後に6面「読物・文化」欄からは、須永誠著『杜のオーケストラ』を。〈杜のオーケストラ〉とは、仙台フィルハーモニー管弦楽団のこと。2023年に創立50周年を迎えました。団員をはじめとする約190人もの関係者に、綿密なインタビューを行っているとのこと。評者の木許裕介さんは、東大大学院修士課程を終了後、指揮者になったという変わり種です。その木許さんの、仙台フィルへの愛が込められた書評は、必読です。偶然ですが、本号から連載がはじまった小林康夫さんの教え子で、師匠のひと言で、指揮者になることを決断したと言います。木許さんは指揮法を村方千之に学びました。村方さんは、あの斎藤秀雄さんおお弟子さんだから、木許さんは、齋藤秀雄の孫弟子となります。これは〈小ネタ〉となってしまいますが、木許さんは、院生時代、読書人でアルバイトをしていた経験があります。書評を読む限り、元気でやっているようで、何よりです(君のオフィシャルサイトを拝見したら、ちょっとふくよかになっていたね)。今度また、新宿で飲みましょう。(A)

■海渡雄一氏に聞く(聞き手=佐藤嘉幸)
<東電刑事裁判高裁判決は次の原発事故を準備する危険な判決だ>(8)

【今週の読物】

◇新連載=百人一瞬 Crossover Moments In my life①・三宅一生(小林康夫)(7)
◇連載=「『ファウスト』の絵画空間」(ジャン・ドゥーシェ氏に聞く)(聞き手=久保宏樹)(5)
◇連載=〈書評キャンパス〉恩田陸著『夜のピクニック』(高野優希)(5)
◇連載=日常の向こう側 ぼくの内側(横尾忠則)(7)
◇連載=American Picture Book Review(堂本かおる)(7)

【今週の書評】

〈3面〉
▽デヴィッド・ハーヴェイ著『反資本主義』(橋本 努)
▽野村真理著『ウィーン ユダヤ人が消えた街』(永岑三千輝)
▽フリップ・ラクー=ラバルト/ジャン=リュック・ナンシー著『文学的絶対』(八幡さくら)

〈4面〉
▽陣野俊史著『ジダン研究』(堤 康徳)
▽ヴェーラ・ポリトコフスカヤ/サーラ・ジュディチェ著『母、アンナ』(小泉 悠)
▽北村滋著『外事警察秘録』(志田淳二郎)

〈5面〉
▽モアメド・ムブガル・サール著『人類の深奥に秘められた記憶』(太田靖久)
▽石川美子著『山と言葉のあいだ』(松井 茂)
▽岡﨑乾二郎著『頭のうえを何かが』(中川素子)

〈6面〉
▽須永誠著『杜のオーケストラ』(木許裕介)
▽玉置太郎著『移民の子どもの隣に座る』(稲葉奈々子)
▽河崎靖著『ドイツ語のことわざ』(堀川敏寛)
▽工藤志昇著『利尻島から流れ流れて本屋になった』(宮地健太郎)

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