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【What’s New!】週刊読書人2024年3月8日号

【What’s New!】週刊読書人2024年3月8日号

【特集】
対談=中井亜佐子×河野真太郎
批評とは何か いまサイードを読むこと
中井亜佐子著『エドワード・サイード ある批評家の残響』

【本紙イントロより】
一橋大学教授で英文学研究者の中井亜佐子氏が『エドワード・サイード ある批評家の残響』(書肆侃侃房)を上梓した。刊行を機に「いまエドワード・サイードを読むということ」と題し、二月十一日、東京・三鷹の本と珈琲のUNITで、専修大学教授で英文学研究者の河野真太郎氏をお相手にトークイベントが行われた。その内容を載録する。 (編集部)


先週号では「いま、ガザで何が起きているのか」、ジャーナリストの綿井健陽さんと安田菜津紀さん、国際政治学者の篠田英朗さんに寄稿いただいています。

そして本号(第3530号)では、中井亜佐子さんの『エドワード・サイード ある批評家の残響』(書肆侃侃房)の刊行記念として行われた、河野真太郎さんとのトークイベントを載録しました。

現状を知ること、その上で考えることが、ささやかに現実を変えていくと思いますが、エドワード・サイードという批評家についての入門書として、中井さんの本は重要なきっかけを与えてくれます。

入門書と言いましたが、取り上げられている本は、『はじまり』『世界、テクスト、批評家』の中に収録されている「旅する理論(トラベリング・セオリー)」『パレスチナ問題』『パレスチナとは何か(アフター・ザ・ラスト・スカイ)』など。多くの人が頭に浮かべる『オリエンタリズム』のサイード、ポストコロニアル批評の先駆者としてのサイードとも別の、多彩な活動の中から立ち現れる特異な人格、その「声」を語ろうと試みられています。

中井さんは、「いかに画期的に見える理論でも、それを生み出した現実から切り離して反復することには限界がある、たえず現実に根差した再解釈が試み続けられるべきである」というサイードの「批評意識」を実感しつつ、本書を書いたと対談で語っています。現状に応答し走りながら、激しながら、批評し続けたサイード。現在、パレスチナを巡って起きていることを、サイードの著作から考える前に、まず中井さんの端正な批評を通るのは意味のあることに感じます。

河野さんとの対談では、リタ・フェルスキのクリティーク批判や、ラトゥールのアクター・ネットワーク理論、スチュアート・ホールの「エンコーディング/ディコーディング」理論、サイードが検討したフィリエーションとアフィリエーション、サイードのレイトスタイルなどを通じながら、批評とは何か、批評家としてのサイードについて、たっぷり語っています。

河野さんが、「絶望の中から何を摑み取ろう、という迫力」と評し、中井さんが恥ずかしくて読み返したくないという終章に、本紙掲載の対談とともに、ぜひ辿り着いていただけたらと思います。

8面では、『〈寝た子〉なんているの? 見えづらい部落差別と私の日常』(里山社)について、著者の上川多実さんにお話を伺いました。「部落差別」というテーマに、手に取るのを躊躇する方がいるかもしれません。が実際は、すごく面白いです! インタビューでも伺っている「君が代」事件には、思わず涙……(車中だったので、マスクでごまかせてよかった)。

読み終えたら、「部落差別」は自分には関係がないとは、もう思えない。私たちがいかに差別と隣り合せで生きているかが実感できます。そして、差別の話を読んでいるのに、上川さんを入口に世界と繫がっている気持ちになれる。前に向かう力をくれる本です。

子どもの頃には、常に何かが少し自分とずれているつらさがあり、周囲に合わせて自分の言葉を「翻訳」していた、という上川さん。インタビューでの上川さんの飾らない言葉は、ひとこと一言ストレートに伝わってきました。本紙で、上川さんの笑顔とその言葉に出会っていただきたいです。


■上川多実インタビュー<世界が信頼できる場であるように>
『〈寝た子〉なんているの? 見えづらい部落差別と私の日常』(里山社)(8)

【今週の読物】

▽論潮〈3月〉(橋爪大輝)(3)
▽文芸〈3月〉(柿内正午)(5)
▽映画時評〈3月〉(伊藤洋司)(7)
▽上川多実『〈寝た子〉なんているの?』インタビュー(8)
◇連載=「偉大な映画作家不在の時代」(ジャン・ドゥーシェ氏に聞く)(聞き手=久保宏樹)(5)
◇連載=〈書評キャンパス〉セス・グレアム=スミス著『ホラー映画で殺されない方法』(村山竣哉)(5)
◇連載=日常の向こう側 ぼくの内側(横尾忠則)
(7)
◇連載=百人一瞬 Crossover Moments In mylife⑥・瀧口修造(小林康夫)(7)

【今週の書評】

〈3面〉
▽森村進著『正義とは何か』(福間 聡)
▽ポール・ゴールドスタイン著『著作権はどこへいく?』(今村哲也)
 〈4面〉
▽権憲益/鄭炳浩著『「劇場国家」北朝鮮』(東島雅昌)
▽仲丸英起著『名誉と実務のあいだ』(君塚直隆)
▽大貫隆著『原始キリスト教の「贖罪信仰」の起源と変容』(澤村雅史)
 〈5面〉
▽尾西康充著『新しい野間宏』(竹内栄美子)
▽櫻田宗久著『ひとりの宇宙』(川本 直)
 〈6面〉
▽フェイ・バウンド・アルバーティ著『私たちはいつから「孤独」になったのか』(木澤佐登志)
▽水野博子・川喜田敦子編『ドイツ国民の境界』  (割田聖史)
▽リタ・コルウェル/シャロン・バーチュ・マグレイン著『女性が科学の扉を開くとき』(増田ユリヤ)

〈6面〉
▽金丸裕子著『自由が丘画廊ものがたり』(細谷修平)
▽吉川孝著『ブルーフィルムの哲学』(岩内章太郎)
▽正置友子著『生きるための絵本』(鈴木穂波)

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