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【What’s New!】週刊読書人2024年4月19日号

【What’s New!】週刊読書人2024年4月19日号

【特集】
対談=小谷野敦×加藤晴美
吉原は過去のものではない
「大吉原展」開催を機に、江戸幻想再検証

【本紙イントロより】
 東京藝術大学大学美術館で「大吉原展」が開催中である(~五月十九日)。これを機に『江戸幻想批判 「江戸の性愛」礼讃論を撃つ』などの著書をもつ作家・比較文学者の小谷野敦氏と、『遊廓と地域社会』の著者で東京家政学院大学准教授の加藤晴美氏に対談をお願いした。(編集部)


 

本号(第3536号)では、東京藝術大学大学美術館で開催中の「大吉原展」を機に、作家・比較文学者の小谷野敦さんと、東京家政学院大学准教授の加藤晴美さんに対談をお願いしました。

 対談前の3月25日、小雨のぱらつく中、内覧会に伺いました。開場を待つ入口で、ばったり小谷野さんと加藤さんに会い立ち話。会場は地下と三階の四室で、図巻や浮世絵、遊女・玉菊が使っていたと伝えられる三味線、花見など野外で用いる蒔絵提重、江戸風俗人形など、数々の逸品の展示を観ました。中でも、対談でも触れられていた高橋由一の『花魁』(明治五年)は非常に印象的な作品でした。実在の遊女をはじめて油絵で写実的に描き、装いは華やかなれど、表情はこわばり横を向いています。モデルになった小稲が、私はこんな顔ではない、と泣いて怒ったというエピソードも面白い。江戸時代に浮世絵などで描かれる花魁はなべて美しく、遊廓はなべて華やかで、一様にファンタジーだったということが、『花魁』と対置することでわかってきます。

 今回の対談は、小谷野さんが著書『江戸幻想批判 「江戸の性愛」礼讃論を撃つ』で主張するように、江戸幻想に待ったをかけることが基底にあります。吉原遊廓を展覧会で取り上げること、あるいは研究することへの批判ではないことは、加藤さんが『遊廓と地域社会 貸座敷・娼妓・遊客の視点から』をはじめ、一次史料を元に、実証的に調査していることからもわかっていただけるかと思います。

 由一の『花魁』を印象的な絵だと感じたとしても、浮世絵が遊廓の広告的な役割をもつ絵であり、同じく遊女を描いてはいても表象の仕方が全く違うということは、説明されなければ気づけないかもしれません。今でも吉原にはソープランドがあるということも。江戸吉原遊廓を文化の発祥地だともち上げ、現在のソープランドの無視とセットになっている、ということを知りながら「大吉原展」の展示を見ると、その華やかさがより特別なものとして感じられるのではないか、と思っています。

  「炎上騒ぎになってよかった」との発言は、事象を面白がって言うわけではなく、社会の認識、まなざしの変化の一つの証であるということです。「大吉原展」とこの対談をきっかけに、さらに吉原の調査や研究が進むといいと思います。


【今週の読物】

▽藤崎一郎インタビュー(聞き手=増田剛)『アメリカから見た3・11』(論創社)をめぐって(6)
▽映画『異人たち』公開を機に原作『異人たちとの夏』を読み返す(陣野俊史)(7)
▽著者から読者へ=『源氏物語を読んでみよう』(中永廣樹)(8)
◇連載=「映画作家の独自性」(ジャン・ドゥーシェ氏に聞く)(聞き手=久保宏樹)(5)
◇連載=日常の向こう側 ぼくの内側(横尾忠則)(8)
◇連載=百人一瞬 Crossover Moments In mylife⑫・税所篤快(小林康夫)(8)
◇連載=戯史 平成紀〈四月〉(安倍夜郎)(8)

【今週の書評】

  〈3面〉
▽山口直孝著『大西巨人論』(鎌田哲哉)
▽渡邉浩司編著『幻想的存在の東西』(山内 淳)
 〈4面〉
▽喜多千草編著『20世紀の社会と文化』(武田 徹)
▽室橋祐貴著『子ども若者抑圧社会・日本』(両角達平)
▽二本松康宏著『諏訪信仰の変奏』(間枝遼太郎)
 〈5面〉
▽石川九楊著『悪筆論』(川崎 祐)
▽キム・グミ著『敬愛(キョンエ)の心』(藤林道夫)
▽安藤礼二著『死者たちへの捧げもの』(松井 茂)
 〈6面〉
▽松山秀明著『はじまりのテレビ』(永田浩三)
▽菅野久美子著『母を捨てる』(小西真理子)
 〈7面〉
▽鷲田清一著『所有論』(大澤真幸)

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